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失敗しても、その経験を活かしてまた新たな道を歩める。“未経験”に囚われずブランド立ち上げに挑戦

Menary 代表 木住野 舞

“女性が活躍できる職場” を目指してさまざまな企業が環境や制度の整備に乗り出しているが、ライフステージの変化に応じた働きやすい環境・風土づくりの面では未だ多くの課題が残されている。

あらゆる女性が自分らしく働き、生きていくために、どのような後押しができるのか。そんな問いから生まれたブランド「Menary(メナリー)」代表の木住野 舞氏に、ブランド立ち上げまでの軌跡と活動を貫く思いについて伺った。

女性が自立して自分らしく働き、生きていける社会を目指して

“舞い踊る”という意味を持つマレー語「Menari」から誕生したブランド、Menary。一人ひとりの女性が自分らしさや可能性を発揮し、はばたき舞い踊れるように。そしてありのままの美しさに自信を持ち、自分らしく笑顔で未来を切り開いていけるように……そんな思いを込めて、こだわりの詰まったプロダクトを多くの女性たちに届けている。

女性のエンパワーメントを掲げてこのブランドが立ち上げられた背景には、代表である木住野氏の経験に根ざした “女性の社会的自立” に対する疑問があったという。

「大学卒業前にボランティアとしてインドのコルカタを訪れたとき、ホームステイ先で出会った同い年の女性に “女性で大学教育を受けられて、好きな時に一人で外国を訪れられるなんて、恵まれているよね” と言われたことが強く印象に残っています。

その言葉や、女性が一人で出歩くことのできない街中の光景を目の当たりにし、自分がいかに恵まれているかを知らずにいたことを痛感しました。字を読んで情報を得られ、自分や家族を売るようなことをしなくとも教育が受けられる。そしてそれらの結果として自分の人生を選択できるということは、本当にありがたいことなのだなと。

それを理解できぬまま大学卒業を目前にしている、勿体ないことをした、という悔しさも込めて、彼女たちが自分で人生を選択できるようになるサポートをしたいという思いが生まれたのです」

大学卒業後、木住野氏は日本のホテルに6年間勤めた。女性の多い職場で育休・産休をはじめとした制度はある程度整っていたものの、ここでも女性のエンパワーメントを改めて意識させられる経験に出会ったのだとか。

「産休・育休が明けて時短勤務で職場に戻られた方々はいつも “すみません” と申し訳なさそうに帰っていき、それに対して上司は “もう帰るの?” と。さらには “これではこの先のキャリアを与えられない” という言葉を耳にしたこともありました。この職場での経験から、たとえ制度が整っていたとしても、周りの人の理解がなければ、“女性がキャリアを選びやすく、自分らしく働ける環境” とは言えないのだと感じたのです」

その後出向でシンガポールを訪れ、日本の職場とは大きく異なる男女の働き方の平等さを体感することに。女性は育休からわずか2週間ほどで復帰するが、その後も家庭や体調などの都合で早く帰らなければならない日があることを誰もが理解し、当たり前のように「今日はもう帰っていいよ」と言い合う文化があったという。

「シンガポールでの一人ひとりの働き方を見て “個人が社会に合わせる” という日本の窮屈さを感じ、コルカタでの経験と相重なって、再び強く心が動かされました。女性が本当の意味で自立して働き生きていけるように、微力でも自分が何か動いてきっかけを作り、社会自体を変えていかなければと思うようになったのです

やってみなければ、その先どうなるかも分からない

新型コロナウイルス感染拡大によるロックダウン措置がとられている間に木住野氏はブランドを立ち上げる決意を固め、2020年夏にシンガポールから日本へ帰国。その後すぐにプロダクト開発をスタートさせた。

この当時持っていたのは、「“女性のエンパワーメント” と “多様性を認め合う社会の実現” をコアのコンセプトとして口紅を作りたい」というアイディアと、それをビジネスにしていこうという考えのみだったという。

「やってみなければその先どうなるか分かりませんし、例え形にならなかったとしても “じゃあ違うことをやってみよう” と別の道を選ぶこともできます。それに、そこまでの経験はきっと他の何かに活かせるはずですから。プロダクト開発や起業の経験がないということに囚われず、とにかくまずはやってみて、分からないことがあれば周りに助けを求めてみようと動き出しました。

初めに掲げたコンセプトと口紅を作りたいという思いは、シンガポールでの経験から生まれたものです。肌の色も文化も宗教も異なるさまざまな女性たちが、赤い口紅をまとい自己表現をしながら働いている様がとても印象的で。赤色には、自分に自信をつけてしなやかさや強さを与えてくれる力があると感じたのです。

誰かに決められた美しさの基準に合わせるのではなく、自分らしい人生を一人ひとりが選択することこそが多様性であり、そのための後押しがエンパワーメントである、という思いを赤い口紅で表現したいと考えました

女性のエンパワーメントに向け、新たにブランドを立ち上げ赤い口紅を作る。それをボランティアではなくビジネスとして行うという決断の根底には、この活動を「相手を助けたい」という気持ちと自己犠牲の上に成り立つものにしてはいけないという強い想いがあったのだとか。

「ビジネスという形をとることで、初めは小さくともいずれ大きな利益をあげられる可能性が生まれますよね。そうなれば、金銭面ではもちろん私自身の気持ちの余裕としても、誰かを助けられる幅は確実に広がるはずですから。徐々に社会に与える影響を大きく、広くしていくためにも、ボランティアではなくビジネスの形にこだわってスタートを切りました

女性が誇りを持って身につけられるプロダクト実現までの道のり

経験に裏打ちされた揺るがないコンセプトと想いを持ってスタートした取り組みだが、決して順風満帆の道のりではなかったという。

「ほとんどの方がマスクを着用しているコロナ禍において、一般に化粧品類の売上は大きく減少しており、そんな中新たに口紅を作ろうという取り組みに対し銀行や中小企業診断士の方からは厳しいご意見がありました。

また、製造をお願いできるOEMメーカーを調べて数百件の問い合わせをしましたが、私は未経験の個人であり、初めの発注予定数も少なかったため、前向きなお返事をいただけるケースは稀で。詳細をお伝えする機会をいただけたのは、わずか2,3社でした」

さらに取り組みを進める中で木住野氏が掲げたもう一つのコンセプトに、「エシカル」がある。女性に自信を持ってほしいと願うからには、彼女たちが誇りを持って使える商品でなければいけない。そんな思いから、「プラスチックフリー」で、かつ多様な宗教観や文化に寄り添えるよう「ビーガン・ムスリムフレンドリー」のプロダクト開発へと舵を切ったのだ。

ブランドとしてのコアメッセージを届けるために不可欠な要素ではあるが、このコンセプトがさらに開発を困難なものにしたという。

「基本的にリップスティックの容器はすべてプラスチックが使われる前提で作られているため、開発にあたってはまず素材を決めた上で、新たにデザインを作るところから始めなければいけません。さらに細かい部品がいくつも組み合わさった構造上、リップスティックは化粧品の中でも特にプラスチックフリーへの壁が⾼いとされています。

この方法で作りたいとOEMメーカーさんにお話ししても、初めは “試作から製造まで非常にコストがかかるのでやらない方がいい” というお返事しかいただけませんでした。

ですが、どうしても諦められなかったのです。やってみなければ本当にできないかどうかも分からないですし、もしも今回前例ができれば、いずれこれが当たり前の選択肢になるかもしれませんから。“原価がどれだけかかってもいいのでやってみてください” とお願いし、帰国から1,2ヶ月の時を経て、ようやくお願いできるメーカーさんが1社見つかりました」

困難を一つひとつ乗り越えて視野が広がり、成長を実感できる楽しさ

 

エシカルリップBENI

およそ1年の開発期間を経て完成した口紅『エシカルリップBENI』は、2021年夏よりクラウドファンディングサービス『Makuake』を通じて販売開始となった。

「ちょうどSDGsが社会的にも広まりはじめたタイミングでもあり、エシカル消費に対してアンテナを張られている多くの方々に手に取っていただくことができました。

これはとても嬉しいことではありますが、Menaryが掲げる一番の目的は女性のエンパワーメントですから、“自分らしさ” に悩む方々に届くように、より強いメッセージングが必要だなと。立ち上げから2年が経つ今はホームページでのオンライン販売の他に、イベントやポップアップを開催し、開発背景まで含めて届けることを念頭に展開しています」

『エシカルリップBENI』の売上の5%はカルカッタの女性たちの教育支援に充てられ、女性のエンパワーメントを目指すMenaryの挑戦の大きな第一歩となった。今後は、プロダクト開発のみならず、コミュニティ運営やイベント開催をはじめとした “環境づくり” にまで取り組みの幅を広げていくという。

今後は、一人ひとりが “自分らしくあっていいんだ” と思え、話し合えるような場をつくることに注力していきたいですね。Menaryが掲げるコンセプトに共感してくれる仲間を増やし、パワーを増すことで取り組みを社会に広げていければと思います

プロダクト開発も起業も未経験でありながら、周りを巻き込み活動を続ける木住野氏の原動力について、最後に聞いた。

「やめることは簡単ですし、もし私が一人だったとしたら途中で諦めて歩みを止めていたかもしれません。ですが、2年間の活動の中で本当にたくさんの方々に応援してもらい、助けてもらってきましたから、ここで “ちょっと上手くいかないからやめます” と言うのは失礼だと思うんです。やりたいことをしっかりと形にして、お世話になった方々に何かを返したいという思いがありますね。

そうやって挑戦し続ける中で、壁にぶつかって悩んだり苦しい思いをしたりすることももちろんありますが、一つひとつ乗り越えていくことで成長でき、どんどん視野が広がっていく感覚があって。“Fun” ではなく “Interest” の意味で楽しさを感じます。

自分のこれまでの経験を今振り返って……もし何かやりたいことがありながらも踏み出せずにいる方がいるのなら、挑戦できる今のうちに躊躇わずにやってみてほしい。失敗してもその経験を活かしてまた新しい道を選べるから大丈夫、と伝えたいと思います

 

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