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AIや新しい技術をポジティブに活用し、 多様なメンバーが一丸となって新しいものづくりを目指す。 ものづくりの現場が判断する、チームラボの採用戦略とは?

チームラボ株式会社 山田 剛史 × マイナビ編集長 高橋 誠人

現在、東京・豊洲で開催中の“チームラボプラネッツ”。“水に入るミュージアムと、花と一体化する庭園”が繰り広げられると話題の展示だ。そんな最新のテクノロジーを活用したアートを始めとして、大規模なシステム開発やプロダクト、デジタルコンテンツの制作、都市計画や建築空間設計などを行うウルトラテクノロジスト集団のチームラボ。新しいものづくりに常に挑んでいくには、優秀なメンバーの採用が不可欠だ。マイナビ編集長・高橋誠人が、同社のユニークな採用方法、人材のポテンシャルの見極め方などについて、採用チームの山田剛史氏に伺った。

新しく作れるものの数、質を上げるために通年で人材採用

 

高橋誠人(以下、高橋):私は先日子どもと一緒に“チームラボプラネッツ TOKYO DMM”に行ったんですが、もう初めての体験ばかりでびっくりしました。10年前ぐらいにも九州で開催されていた展示に行ったことはあったんですが、今回の裸足で水を感じるというのはすごいですね。子どももめちゃくちゃはまって、またすぐに行きたいと言っています。このようなものを生み出す集団とは、どんな人たちなんだろうと個人的にも興味津々で、今日はこちらに伺いました。採用に関しては3つの職種で分けていらっしゃるんですよね? 採用形態はそれぞれ違うのでしょうか? どの職種に力を入れているなどはありますか?

4つの巨大な作品空間と、2つの庭園からなる「水に入るミュージアムと、花と一体化する庭園 」が、この“チームラボプラネッツ TOKYO DMM”。裸足になって、身体ごと巨大な作品に没入すると、作品は変化し、身体と作品との境界が曖昧なものになる。同時に作品は、他者の身体によっても変化し、作品と他者との境界も曖昧なものとなり、身体は作品と、そして他者と連続的になる

 

山田剛史(以下、山田):現在チームラボには、高橋さんにお越しいただいた“チームラボプラネッツ TOKYO DMM”のような展覧会や、アートを展示する美術館を作るといったプロジェクトを担当するアートチームと、ウェブやアプリの開発といったクライアントの課題解決を担当するソリューションチームの、大きく分けて2つのチームがあります。両方のチームとも外部のパートナーやクライアントから相談を受けてプロジェクトが始まるという点では、構造に大きな違いはありません。幸いなことに様々な方面からお問い合わせをいただいているんですが、リソースに余裕がない部分では残念ながらお受けすることができないということになります。少なくとも現段階では、全部の職種・チームに均等に人が増えていけば、チームラボとして新しく作れるものの規模やクオリティが上がっていくのではないかと我々は思っていますので、全職種まんべんなく採用に力を入れて、新卒・中途関係なく1年間を通して採用を行っています。

高橋:その“通年採用”というのも、大きな特徴かと思ったのですが、なぜそのような取り組みをされているんですか?

山田:現在、東京のチームラボでは、21カ国のエリア・地域から来てくれたメンバーが働いてくれています。国によっては卒業年度やタイミングなどがまちまちなので、日本の就活スケジュールに沿って採用を行っていると、それに合わない方は応募しづらくなってしまいます。だったら難しいことを考えずに、1年中扉は開いておく方が良いかなと。そうすることにデメリットも思いつかなかったので、通年採用という形を取っています。

 

高橋:その他にも、卒制卒論採用や、書類選考なしのオンラインプログラミング採用などユニークな採用方法がありますよね。こう言っては何なのですが、それだけで採用できるものなのでしょうか? 見る人が見れば、その人の実力はきちんと測れるということなのかとは思いましたが。

山田:それも良い人材に来て欲しいからに他ならないのですが、応募してくる人の中には、たまに、就活をあまりしてこなかったという方がいます。理由はいろいろあって、研究や創作にめちゃくちゃ没頭していたとか、それが忙しすぎて就活のスケジュール通りに動けなかったとか。留学していたから日本の就活スケジュールに間に合わなかった、という方もいます。そういう方が就活の代わりにどんなことをやっていたのか作品や研究について提出してもらったものを見ると、ものすごくクオリティの高いものがあります。その人が過去に研究したこと、作ったものの実績というのは普遍的で、近いことをやっているメンバーが見れば一目瞭然なんだと思います。チームラボとしては、AIでも簡単にテキストが生成できる現代では特に、エントリーシートなどのテキスト情報や、人間同士が数分間話すだけの面接では、その人の優秀性はなかなか測れないと考えています。だから、エントリーシートや面接より、その人の実績を書類選考の代わりにする方が、こちらとしても判断しやすい。卒制卒論や個人制作などに没頭していた人も正当な評価を受けられるし、お互いに良いのではないかと思って取り入れています。

面接では、一緒に働きたいかどうかがカギになる

 

高橋:現代は多様性の時代、正解の無い時代と言われ、何が成功するか分からない混沌とした状況です。そんな中、周囲が何を言おうと自分が好きなことをトコトンやってきた人や、海外を自由に放浪して経験を積み重ねてきたなどという人材が、チームラボのような採用を通して集まると、それぞれの強みを活かして、結果として“チームラボプラネッツ”のような、誰も体験したことのないものを生み出せるということですね。そのようなスキルを見る一方で、人柄や性格などはどう見られるのでしょうか?

山田:求める人柄や性格というのはチームによって様々だと思いますが、極論を言ってしまうと、その方が自分のチームに入ってきてくれたら自分は嬉しいか、一緒に働きたいと思うかどうかといったことになるのかなと思います。基本チームラボでの採用は、面接に進む前にスキルチェックは終わっています。ちなみにですが、このスキルチェックというのは、その人が入社したら所属することになるであろうチームの人たちが、課題やポートフォリオなどを見て判断します。我々はリクルートの担当でありますが、書類選考や面接を担当することは基本ありません。現場の人々がその人の提出物について話を聞いてみたいと思えば、面接に進んでもらい、最終的には役員が会って、お互いに問題なさそうであればご入社していただきます。チームラボに合うかどうか、一緒に働きたい、一緒にものづくりをしたいかどうかというのはいたって非言語的な部分ですが、それを判断する経験値を持っているのは、現場の人間なので。

高橋:その人の内面を見るという意味で、たとえば同じレベルの作品を作ってきた人が2人いたらどうするのでしょうか? チームラボの採用サイトには“新たな創造”や“知の蓄積”が大事だと書いてありました。知的好奇心や学習意欲の高い人が評価されるのでしょうか?

山田:そのあたりを面接で聞いていると思います。ご提出いただいた実績の中にクオリティの高い作品があったとして、どの部分を担当したのか。個人制作なのか、グループプロジェクトなのか。その人はなぜそれを作りたかったのかということを聞いていくと、ものづくりへの高い熱意や思い入れがあることがわかったりします。そういう人なら、一緒に仕事をすれば何か助けてくれそうだと思えるので、是非チームに加わってほしいということになりますね。

世の中にないものを生み出したいからこそ、AIの利活用にはポジティブに

 

高橋:さきほどAIを使えば簡単にエントリーシートなどの作文もできてしまうというお話がありましたけど、AIの進化はものすごい速さですよね? そんな時代にチームラボの採用はどのように進化していくと考えていますか? AIがあれば人間が面接する必要はないのか。とは言え、人間が関与するのはやはり大事なのでしょうか?

山田:採用に関して言えば、代表からは“面接するな”とずっと言われているんですよ。正直最初はどういう意味なのか分かりませんでした。でも、少しして理解できたんですが、どうしても人間が面接で判断できる情報というのは個人差が出てきたり、不正確な部分が出てきてしまうんですね。ですから、面接の質疑応答は、可能な限り誰がやっても同じ質問をしようとしています。本当に全ての面接内容が同一になるのであれば、面接官をAIに切り替えても良いのかも知れませんが、まだそこまで信頼できる精度が出せるようになるまでは、少なくとも数年はかかるのではないでしょうか?

高橋:おっしゃる通りですね。人間対人間の判断の信憑性というのは、なかなか担保しにくいです。人を公平に、主観を交えず正当に見極めるような選考は必要だと思います。かと言ってAIなどの未知のテクノロジーへの抵抗感はまだありますし、難しいですね。

山田:採用に関してはそんな状況ですね。プロジェクトでどこまでAIを利活用していけるかは、これからも引き続き新しい技術の検証を行い、ものづくりの質やスピードが向上できるように、それぞれのチームで試行錯誤していくと思います。

 

高橋:採用ページには、スペシャリストばかりじゃだめで、人と人を繋ぐ人も大事だと書かれていましたよね? それが3つの職種のうちの1つである「カタリスト」、つまり触媒という人材ですね? そういう人を意識的に採用しているということはあるんですか?

山田:はい、それがまさにカタリストです。たとえば、花を用いた作品を作ろうとするとき、どんな風な見え方が良いか、またそれをするにはどの品種の植物が適しているのかなどを模索し、デザイナーやエンジニアが何か困っていたら、問題を抽出して解決に導き、プロジェクトがスムーズに進行するように、ひいては最終的に作るもののクオリティが高くなるように人と人を繋いでいく触媒がカタリストです。そう言うと、コミュニケーション能力の問題かと思われがちですが、そうとも限りません。アートとソリューションでは求められるものが違います。アートなら最終的に作品のクオリティができる限り高くなるように、開発チームみんなで現場に入り、施工の管理から作品の調整まで文字通りチーム一丸となって昼夜行動を共にし、完成へ向けて奮闘します。そのチームと共に創るプロセスが楽しいとか、瞬間的には疲れるかもしれませんが、作品ができあがったときにテンションが上がって嬉しいとか、そういう現場でチームが一丸になれる状況を作ることも重要な業務の一部になります。一方、ソリューションの場合は、ユーザーに使われるサービスを考えるときに、必要な情報のリサーチから、こんなリスクがあったらどうするかなど、先を見据えてクライアントと認識を合わせていくことやリソースの管理も重要ですし、そういう経験値も大事になってきます。

高橋:なるほど、テクノロジーの会社というと無機質なイメージを持ちがちですが、そういう意味ではすごく人間臭い部分も大事だということですね。今日、いろいろお話を伺ってきて、チームラボのみなさんは、とにかく良いものづくりをしたい、楽しく仕事をしたいという気持ちで毎日を過ごされているのだろうなということが分かりました。

山田:どんなにAIが優秀になろうと、人が行動する物理的なスペースを作りきるのは、まだAIには出来ないと思います。人が使ってどう気持ちいいかとか、前例のないものを作りだすのはAIには難しい領域でしょう。ただ、チームラボは創業時から新しい技術を活用してきましたから、AIを使うことにはものすごくポジティブです。新しい技術を活用して、まだ世の中になかったものを作っていくのがチームラボの目指すことで、これからもどんどん作る物は変わっていくと思います。実際、20年前にはモバイルアプリなんてなかったし、作ることになるとも考えていませんでしたから。5年後、10年後、僕たちがどんなものを作ることになるのかはわかりませんが、みんなが各々に新しい発見をして共有しながら楽しんでいただけるものを作るのは本当にやりがいがあります。日々新しいことを追い続け、ものづくりをしたい方は是非チームラボに来ていただきたいですね。

 

(まとめ)

山田氏がチームラボに参加したのは、6年前。面接してくれた役員に採用を担当してみないかと言われ、現在に至るのだそう。採用と言えば、普通は会社をよく知っている、ある程度社内でキャリアを積んだ人が適任とされるはずだが、チームラボについて語る氏の言葉からは、仕事やチームラボに対する愛情が十分に感じられ、スカウトした人物の判断が間違っていなかったことがわかる。とにかくものづくりが好きな集団が、これからどれだけ私達をワクワクさせてくれるのか、今後も期待したい。

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