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なぜ若者は会社を辞めるのか?20年続く「早期離職3割」を分析

多摩大学准教授 初見康行×マイナビ リサーチ&マーケティング部 栗田卓也

入社後3年以内に離職する大卒者の割合は、過去20年間、概ね3割前後で推移している。辞める原因は仕事や待遇への不満か、人間関係の悩みか――早期離職のメカニズムを研究する多摩大学の初見康行准教授とマイナビの栗田卓也が、離職の要因や、企業に求められる対策などについて語った。

早期離職には4つの要因が関係している

栗田:最近の若者の意識は知名度や待遇で企業を選ぶ「就社」から、やりがいやスキルアップを重視する「就職」へとシフトしつつあります。それでも、早期離職率は3割前後で推移し、変化の兆しは見えません。要因をどのように分析されますか。

初見:早期離職を時代背景も含めて分析した結果、4つの要因が関係していると考えられます。
1つ目は景気に代表される「環境要因」です。好景気のときは求人が増え、企業の採用ハードルも下がります。志望や能力に見合った企業に就職する学生が増え、離職率が低下します。逆に不況期は求人が減り、採用基準は引き上げられます。学生は、不本意ながら志望に合わない企業に入社(不本意就職)せざるをえなくなる可能性もあり、離職率が上昇します。



栗田:しかし実際は、景気が上向いているときも、約3割が離職している。そこに、別の要因が絡んでくるのですね。

初見:そうです。2つ目は「構造要因」、つまり産業構造の変化です。バブル崩壊後に製造業の就業者数が減り、代わりにサービス業への就業者数が大幅に伸びて、製造業を上回りました。製造業は、一般的に長期安定雇用で人材育成が手厚く、離職率は低い。一方、サービス業は早期離職率が高いため、全体の数字を押し上げました。
さらに2000年前後から、終身雇用・年功序列のいわゆる「日本型雇用」が崩壊し、成果主義が台頭しました。それに伴い、賃金の上昇率も鈍化し、一律に右肩上がりで昇給する未来が描けなくなりました。こうした「企業要因」が3つ目の要因で、若者の離職に拍車をかけました。
企業に人生を保証してもらえなくなった学生は、自分の力で生き抜くため、やりがいのある仕事、興味のある仕事を探し始めました。個人の意識の変化である「個人要因」が4つ目の要因です。

栗田:確かに意識が高い学生ほど、「就社」ではなく「就職」し、スキルを身に付けたいと考えています。

初見:それが逆に視野を狭め、望む仕事ができないのなら会社を辞める、という安易な考えにも結び付いています。これではスキルが蓄積しません。しかし、彼らに「10年我慢しろ」と言っても、理解されないでしょう。

 

図1.若年早期離職の推移と要因間の仮説的因果関係

※初見康行著「若年者の早期離職-時代背景と職場の人間関係が及ぼす影響-」より引用

早期離職のメリットとデメリットは?

栗田:企業、若者それぞれにとって、早期離職のメリット、デメリットは何でしょうか。

初見:採用・育成コストが無駄になってしまうため、企業にとって早期離職のメリットは考えづらいと思います。ただ、自社の方向性に合わない社員の離職の場合、雇い続けるコストに比べればはるかに小さく、長い目で見ればプラスと考えられるかもしれません。
若者にとっても志向に合わない業界、企業を把握することは、自分に合った企業を見つける第一歩です。昔は転職市場が発達しておらず、社員は一度入った会社をすぐに辞めるわけにはいきませんでしたが、今は大企業でも転職の門戸を開いていますから。ただ、キャリア形成の上では、不利に働くこともあります。人事担当者の多くは、3カ月や半年で前職を辞めた人の採用をためらうでしょう。新卒に比べると求人数も少なく、就職先の選択肢が狭まるおそれもあります。スキルがほとんど積み上がっていない状態での転職は、能力的にもきびしいと言わざるをえません。

上司は早期離職防止のキーパーソン

栗田:初見先生は、職場の人間関係が離職に及ぼす影響についても分析していますね。

初見:はい。インターネット調査で、全国の社会人を対象にデータを収集しました(22~39歳の社会人/1,037名/2013年10月28日~10月31日実施)。その結果、新入社員の離職に、特に大きな影響を与えるのは上司だということがわかりました。新人は、「会社を体現する存在」として上司をとらえがちです。上司との関係が悪化すると、「自分は会社そのものと合わない」と考えてしまう可能性があります。

栗田:例えば、ある企業の上司が遅くまで働いていると、それを見た部下が会社自体に「残業が多い」というイメージを抱くということですね。

初見:ネガティブなイメージだけではありません。分析では、若手社員が「辞めたい」と思ったとき、離職を思いとどまらせる力を持つのも上司だけでした。

栗田:上司が「君は会社にとって大事な人材だ」と語りかけることで、会社からも認められたと感じるのでしょうか。
最近は、若手の先輩社員を新人のメンターにつける大企業が増えています。新人はメンターから意見を聞き、自分を見直すこともできる。離職するかしないかを判断する際の、大きな助けになるのではないでしょうか。



初見:上司が新人に大きな影響力を持つのは、入社したてで社内の人間関係が狭く、身近に接する人間が極めて限られていることがあります。例えば、上司の残業が多くても、メンターがそうでなければ新人の「遅くまで働く会社」というイメージは修正されます。会社を多角的に見られるようになる点で、メンターは有益だと思います。

栗田:新入社員の早期離職を防ぐ方法は、ほかに何か考えられるでしょうか。

初見:上司が部下へ業務を命じるとき、その意味を説明することではないでしょうか。
従来の日本型雇用は、企業が人生を丸抱えすることと引き換えに、社員のキャリアを決めるという等価交換でした。だから、「つべこべ言わずに営業行ってこい」「回数をこなして基礎体力をつけろ」といった強引なやり方が通用しました。しかし、それが崩れた今、上司は会社における業務の位置付けや期待される成果、本人のキャリアに与えるメリットなどを話し、部下に納得してもらうことが必要だと思います。

栗田:就職活動の段階で企業と学生とのミスマッチを減らし、早期離職を防ぐ対策はあるでしょうか。

初見:学生の就職活動に関わる中で、効果が高いと感じるのはインターンシップです。学生はインターンシップに行って職場の雰囲気を知ると、就職に対する意識が明らかに高まります。インターンシップ経験者は未経験者に比べて内定を得る時期が早く、就職先に対する満足度も高い傾向がみられました。ただ、1日のインターンの効果には疑問がありますし、内容には改善の余地も大きいと考えています。

栗田:調査をすると、短期インターンのニーズが徐々に増えているのです。多くの産業をみて回りたい学生にとって、参加しやすいからでしょう。短期間のインターンシップで得られる学習効果はやや低くなるのですが、全く効果がないわけではなく、企業を知る役には立ちます。はじめは短期のインターンシップに参加し、興味がわいたら長期インターンシップへ、という使い分けをすればいいと思います。

離職の中にはポジティブな離職もある

栗田:早期離職率は今後、どのように推移するとお考えでしょうか。

初見:職業観が抜本的に変わった今、大幅に下がることは考えづらいと思います。今後も、3割前後で推移するのではないでしょうか。ただ、離職の中にはポジティブな転職もあります。3割の中身が大事で、離職率が下がれば良いという問題でもありません。

栗田:2018年10月末に全国求人情報協会が発表した調査(若者にとって望ましい初期キャリアとは )でも3割の離職理由について発表がありましたね。確かにポジティブな転職も一定数存在していました。産業構造の変化に伴う離職については、福祉や観光といったサービス部門の賃金が上がれば、多少歯止めがかかるかもしれません。

図2.大卒就職者の就職後3年以内離職率の推移

※公益社団法人 全国求人情報協会「若者にとって望ましい初期キャリアとは」より引用

初見:早期離職率が高止まりすることで、「若手社員への教育研修は無駄」と考える企業があるかもしれません。しかし、それは間違いだと私は思います。若手社員への投資を厚くしたほうが、会社にとどまる可能性は高まります。若者は外部労働市場でも通用する、普遍的な意味でのスキルを求めているからです。

栗田:企業は社員に逃げられたくないので、自社以外でも通用するようなスキルの提供をためらいがちですが、逆に帰属意識を高めるのですか?

初見:そうです。AI時代の到来で、若者はこれまで以上に高度でクリエイティブな仕事を求められるようになります。組織に所属しつつも、自分の専門性を意識し、個人の力を高めなければ生き残れません。なので若いうちにスキル・経験を積める会社に入社しようと思うし、結果、そのような機会を豊富に提供してくれる会社に留まる可能性が高くなると考えています。

栗田:確かに、これからの人材はAIによって得られたデータを、みずからの経験や知識で解析する役割を担う。専門領域を作らなければ難しいですね。

初見:だからこそ企業側の教育への投資が、若者を引き留めるのです。かつて企業は安定雇用だけでなく、福利厚生など多くの恩恵を社員に提供してきました。これらが失われる中、それに代わるものを企業も真剣に考えていかなくてはなりません。有益なスキルも経験も与えず、ただ「会社にとどまれ」というのは無理な話です。
一方、若手社員も与えられたものを受け取るだけでは不十分です。企業がスキルアップの機会・経験を提供し、社員も業務の遂行を通じて企業の期待に応える。それが、一つのマッチングの姿ではないでしょうか。

                                                                     (構成・文 有馬知子)

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