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従来のビジネスを深化し、新たに探索するイノベーションは、 D&Iの推進から生まれる

BIPROGY株式会社 ダイバーシティ推進室 室長 太田志保/採用マネジメント室 室長 柴田宏一/物流サービス二部 二室スペシャリスト/塩澤太一

 

今やD&Iへの取り組みは、どの企業にとっても必須のテーマだ。ただ、重要であることはわかっているけれども、どうしたらいいかわからない。制度や仕組みを作ったものの、利用が進まない、効果が見られない。このように手応えがないまま進めている企業も少なくないように思える。そこで、2007年頃から制度の拡充を始め、現在その実績を各種アワードの受賞に繋げて注目を浴びているBIPROGY株式会社に、D&Iへの具体的な取り組みについて伺った。

BIPROGYの社名の由来が象徴するD&Iへの取り組み

BIPROGY株式会社。日本ユニシスから社名を変更してまだ1年。まだその社名に耳馴染みがない人もいるかもしれない。コンピュータやネットワーク、クラウドやアウトソーシング、そしてソフトウェアの開発・販売といった各種システムやサービスを提供する企業である。ちなみに、BIPROGYとは、光が屈折、反射したときに見える7色の光彩、Blue、Indigo、Purple、Red、Orange、Green、Yellowの頭文字を繋げた造語だ。唯一無二のブランドとして様々なビジネスパートナーや多種多様な人々がもつ光彩を掛け合わせ、混とんとした社会の中で新たな道を照らしだし、社会や環境変化に応じて提供する価値を変えていくという意味が込められている。そんな社名の所以に象徴されるD&Iへの取り組みが立ち上がったのは、2013年頃だという。

 

「育児や介護などのライフイベントと仕事とを両立しワークライフバランスを支援する制度の拡充は、D&I推進が本格化する以前の2007年頃よりCSRの文脈でスタートしていました。その前から制度はあったのですが、制度を利用した社員の感想なども社内報などで伝えながら、社員ひとりひとりがワークライフバランスを追求できるようにする環境作りが2013年からは、より進んでいきました。」

と語るのはダイバーシティ推進室の室長を務める太田志保氏。この部署は、BIPROGYのD&I推進が本格化する少し前、2013年に立ち上げられた。

「2016年には風土改革推進部署が設置され、2017年にはグループのマテリアリティにダイバーシティ推進が掲げられました。2018年に立てられた三カ年に亘る中期経営計画では、“風土改革”が重点施策の一つとして挙げられ、D&I推進は経営の重要課題となりました。中でも、女性の管理職比率はマテリアリティの目標の一つとして設定され女性の登用が促進されました。」(太田氏)

BIPROGYのD&Iへの取り組みがまず女性活躍推進から始まったのは、ダイバーシティの最優先事項が女性であったことが大きいという。意思決定層に占める女性の比率を上げていくこと、また継続的に輩出されるよう人財パイプラインを強化していくことを目指していったそうだ。20年度までに女性管理職比率の目標値を10%と定めていたが、結果的には20年7月に10.2%を達成。並行して、社内のD&Iに対する理解浸透策、LGBTQや障がいのある方、育児や介護などのライフイベントを抱える人など様々な社員に対する支援策を継続してきた。このような“女性活躍推進”をはじめとしたD&Iへの取り組みに対して、“2019年度 女性が輝く先進企業表彰 内閣府特命担当大臣(男女共同参画)表彰”、“令和2年度 新・ダイバーシティ経営企業 100選プライム(経済産業省)”、“令和3年度 なでしこ銘柄(経済産業省、東京証券取引所)”など、さまざまな表彰を受けることになった。

「BIPROGYがこのようにD&Iへの取り組みに注力し始めたのは、ビジネス環境の変化にともなって、ビジネスモデルを変革していかなければならなかったからです。従来の受託型SIビジネスだけでなく、お客さまやパートナー企業と共に社会課題を解決するビジネスエコシステムを創造していくため、従来のビジネスを深堀りし、改善する「知の深化」と新しい知財を掛け合わせる「知の探索」を繰り返す“両利きの経営”が推進されました。そのためには、多様性のあるイノベーティブな組織風土の醸成が必要であり、D&I推進も重要になったのです。」(太田氏)

意識を変え、風土を改革する“対話”の重要性

たとえば、女性管理職の比率を高めていくには、ただ辞令を出せば良いというものではない。いくらトップがある目標に向かって旗を振っても、下がそれについて行けずなかなか事が進まないというのは往々にしてあることだが、BIPROGYの場合、D&Iへの取り組みはどのように進めていったのだろうか。

当社では、トップのメッセージ発信、制度・しくみの整備、意識改革を3つの柱として様々な施策を進めてきました。イントラネットや全社員向けのセミナーでトップマネジメントからメッセージを発信したり、働き方改革や介護・育児支援制度、同性パートナーシップ制度など、多様な人財が活躍できる職場環境も整備してきています。また社員の意識改革も必要で、全社員を対象にしたeラーニングやセミナーの実施、管理職を対象としたダイバーシティマネジメント研修、女性社員向けのリーダーシップ、キャリアデザイン研修、育児休職者向けの本人と上司と当室メンバーとの三者面談など様々な施策を継続してきています。また、D&Iの状況を可視化するために、全社員に向けたアンケートを継続的に実施し、経年変化を見ています。試行錯誤ではありますが、着実に組織風土が変わってきていることが窺えますし、なんとなく会社が変わったよねという声もよく聞くようになりました。」(太田氏)

 

BIPROGYでは、“D&Iと風土改革”という言葉がいろいろなところに記されており、本日お話を伺う3人の方もたびたびその言葉を口にする。

「当社の経営方針の中には、社員ひとりひとりのチャレンジや自己実現を応援・称賛する風土の醸成というのがあるんですが、こうした風土を醸成していくためには、専任組織による推進だけでなく、さまざまな組織がいろいろな角度から施策を打ったり、社員も一緒に取り組んだりしていくことによって相乗効果で変わっていくものだと思っています」(太田氏)

社員の意識を変え、風土を改革する。そのためにBIPROGYが行っている施策の中でもユニークだと思われるのが“D&Iダイアローグ”だ。ダイアローグとは対話のこと。“D&IをMustからWant toへ”をスローガンに、現場部門による主体的な対話型組織開発でD&Iを推進していくことを目的にしている。

 

「“D&Iダイアローグ”は、参加メンバーで対話を重ねながらD&Iのありたい姿“ToBe像”を言語化する「自分ゴト化プログラム」と、参加メンバーそれぞれが自組織で上司や周囲のメンバーを巻き込みながら対話の取り組みを展開する「事業部施策」の2つのパートで構成される、年間を通じた取り組みです。2020年度から毎年少しずつ形を変えながら試行錯誤で進めています。20年度は取り組みを理解するスポンサーとなる役員層のチームで始まり、21年度は現場のコアとなるメンバーで実施しました。」(太田氏)

「僕は現場からの1stチームとして21年度から参加しました。部門も役職もバラバラの人たち11名が定期的に集まってオンラインで対話をしています」

こう語るのはSEとして長年システム開発を手がけてきた塩澤太一氏だ。前年に開催された役員チームのメンバーから、直々に参加するよう促されたのだそう。

「ダイアローグのテーマは、これからのBIPROGYはどうなるのかとか、社員のモチベーションをあげるにはどうしたらいいかなど、とてもふわっとしています。それに対して“自分はこう思う”というような感想から、共感の意見や“それならこうしたらいいんじゃないか?”などといったコミュニケーションができて、参加者の中で一体感が生まれ、次のアクションへと自然と繋がっていく。ダイアローグはそんな流れですね。時間は参加人数にもよりますが、6名くらいであれば1時間を目安としていて、特にゴールというものを明確には決めていません。結論が出なくても、何となくみんなの間で共通認識が生まれ、毎回気持ちが少し動いた感覚が掴めました。それが積み重なっていくと意識だけではなく行動も変わっていくことを、僕だけではなく周囲の変化としても感じることができました」(塩澤氏)

 

実は塩澤氏は、以前は会社というものに心理的な距離感があったのだそう。しかし、この“D&Iダイアローグ”に参加するようになってBIPROGYをより身近に感じるようになったと語る。

「オンラインの画面で皆の意見をお互いにフィードバックし合いながら、会社はどう変わっていくのが良いのか、そのために僕たちは何をしなければいけないのかといったことを話し合います。ダイバーシティって女性とか障がいを持っている方といった、属性の問題だと最初は思っていたんですが、話していくうちに、皆それぞれ個人の考え方があって、そこにダイバーシティがあるんだということに気づかされました。他人の話ではなく、社員ひとりひとりの話なんです。すると、会社がぐっと自分の方に近づいてきて、自分は会社に対して意見を言うことができて、それを受け止めてもらえる。会社がより身近になって、だったら自分自身もこうあるべきだな、もっと頑張ろうと前向きな気持ちになったという点で大きな意識の改革がありました」(塩澤氏)

この“D&Iダイアローグ”のような取り組みを更に広げていきたいと考えた塩澤氏は、今度は自分の部署でチームを立ち上げ、対話を繰り広げているそうだ。

風土改革は多様な人材の採用を起点に、フォローと研修を継続して行うこと

BIPROGYの社名の由来の通り、より多様な価値を創出していくためには、外国籍人材や障がいのある方など、多様なバックグラウンドを持った人財の採用も重要だ。その点でも同社はユニークな採用を行っている。

 

「BIPROGYの提供するサービスは、従来のSI(システム・インテグレーション、情報システムの企画・設計から運用までを一貫して行うサービス)に加え、ビジネスエコシステム(業種・業界を超えて企業が結びつく仕組み)や、デジタルコモンズ(注1)などといった新しいテーマが出てきている中で、採用活動におけるダイバーシティというと、大きく分けてふたつの文脈があります。ひとつは、今までにはなかったような多彩な人財、多様なケイパビリティを持った人材の獲得。もうひとつは、風土改革を進めていくためダイバーシティとして、新卒に関しては、よりターゲットを明確にするために現在7つのコース別による採用を行っています

(注1)デジタル時代の新たなコミュニティのこと。デジタルの力によって有形・無形の資産を「見える化」「見せる化」し、新たな価値が付加・創出された資源や知識、サービス、コンテンツ、体験などを「共有財」として集約して共同管理する。蓄積される「財」を第三者とも共有し、利活用することで、稼働率向上や新たな価値創出を実現していく。

そう語るのは、人事部で採用を担当している柴田宏一氏。従来は営業職、システムエンジニア、コーポレートスタッフの3つの職種の区分で採用していたものを、現在ではたとえばビジネスプロデュースやプロダクトエンジニア、アントレプレナー、ハイスキルエンジニアなど、多様な実際の職務要件に合わせて、今までになかった領域に特化したコースを設けて採用しているのだそう。細かくコースを分けることは、入社後のミスマッチを防ぐことにもつながるだろう。

 

「BIPROGYの人事戦略として、ジョブ型の専門性を磨くのではなく、複数の役割(ROLES=ロールズ)を持てる人財を育てることが目標にあります。経験者採用では、そのROLESに即した多様な人財の獲得を進めています。一方、さきほど申し上げた風土改革の文脈で言うと、女性及び外国籍人財を新卒採用全体の50%以上にしていくことを目標にしていますが、IT=理工系の領域になるので、理工学部だと従来はどうしても男子学生が多くなりがちでした。そこは、発信の仕方を工夫したり、採用チャネルを多様化していくことでここ数年は目標値を達成できていますね。障がいのある方の雇用に関しては、現在民間企業の法定雇用率は2.3%と定められていますが、BIPROGYではそれにプラス0.1%する目標で進めています」(柴田氏)

新卒採用では、コース別採用において、特にアントレプレナーやハイスキルエンジニアなどの職種を “新卒プロフェッショナル社員”として、選考・処遇ともに別枠で採用するコースもあるのだそう。多様な採用を行っているのは十分理解できたが、会社の風土改革は採用を起点として、その人財の育成、受け入れる側の体制も継続してフォローしていく必要がある。

「多様な人財を受け入れる事に関しては、もちろん課題は少なくありません。たとえば、新卒プロフェッショナル社員の場合は、受け入れ側としてはどのような役割を担ってもらえばいいのか、評価はどのようにするのかが課題になります。外国籍人財の場合は、仕事に対する考え方や進め方、コミュニケーションの取り方などカルチャーギャップがあって戸惑うケースが多いんですね。受け入れ体制に関しては、ダイバーシティ研修を本人と上司向けに行ったり、個別に対応していくなど、継続的なフォローが欠かせません。ほとんどの人は、総論賛成だけれども、実際にはどうしたらいいかイメージしにくい部分もあるので、人財のロールモデルになるような人を採用起点でひとりでも多く作って、そういう人がいるとどんな変化が起きるのか、どういう価値が生み出されるのかを、みんなに実感、共感してもらうことが大事だと思っています」(柴田氏)

D&Iにより失敗を恐れずチャレンジする意欲が生まれる

BIPROGY代表取締役社長の平岡昭良氏が口癖のように言うのは“成功のKPIは失敗の数である”だそうだ。会社で一番失敗しているのは自分であると。冗談めかして“失敗をたくさんすれば自分のように社長になれる”とも言っているそうだが、それはチャレンジの結果としての失敗を許容する風土を醸成する力にもなっているという。

「風土改革というと働きやすい、人に優しい環境といったイメージがあるかと思います。もちろんそれも大切なのですが、D&Iを推進していくことによって、新しいチャレンジに若手の人財も含めて非常に積極的に手が挙がるようになりました。失敗を恐れずにチャレンジする。もし、何か問題が発生すれば率直にエスカレーションしていく。そういう組織のパフォーマンスが向上しているのを日々感じています」(柴田氏)

そんなチャレンジを恐れない、多様性を活かしていこうとする現場の動きを、塩澤氏も実感していると語る。

「手がけるビジネスにもいろいろな変化がある中で、IT人財が不足していると言われれば、個人をどう活かしていくかが重要になります。新しいビジネスを立ち上げ、大きくしていくにはアイデア勝負です。そのアイデアはトップから降ってくるのではなく、現場でああでもないこうでもないと言う中から生まれるもの。それこそみんなで対話する中で、ビジネスに対する想いや意志を引き出していくことが重要になってきます。そんな対話の場を作っていくことが自分の仕事かなと思っています」(塩澤氏)

“D&Iダイアローグ”では、最後に“To Be像”という自分たちのありたい姿を1文でまとめるのだそうだが、皆が思い思いのことを語る対話を重ねていった後には、驚くほど短い時間で収束するのだという。

「以前は、トップがこうだと指針を示して皆で同じ方向を向くことに力があったのだと思います。しかしそれだけでは今の変化する世の中に応えていくことはできません。社員一人ひとりの個性が尊重され、自ら考え、行動する、そして多様な個性が組織力に生かされることが必要なのだと思います。私たち社員がD&Iの取り組みを地道に継続していくことが大事だと思っています」(太田氏)

 

(まとめ)

今回はD&Iを推進する担当部署、採用を担当する部署、そして現場からの3者の話を伺った。このような取り組みはトップが旗を振るだけでは進まないと冒頭に述べたが、みなが自分事として考え、周囲を巻き込んで動いていく。そのことによって言葉だけではなく、実感として隅々にまで多様性が染み渡っているような印象を受けた。

【取材・文:定家励子(株式会社imago)】

【写真:吉永和久】

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