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株式会社クロスリバー代表 越川慎司

528社の働き方改革を通して見えた成功の条件


これまでに、大・中小企業合わせて528社の働き方改革を支援してきた株式会社クロスリバー。

クライアントはどのようなコンサルティングのもと、働き方改革を成功させているのだろうか。

同社の社員は全世界に38人おり、CEOの越川慎司さんをはじめとする全員が週休3日、週30時間労働で成果を上げている。働き方改革が成功する条件について、越川さんに話を伺った。

働き方改革に成功する企業はわずか12%

──日本企業の働き方改革って、どのくらい進んでいるのでしょうか?

越川:上場企業の約7割が働き方改革に着手していますが、成功している企業の割合でいうと、当社のクライアントである日本企業528社16万人に対して調査したところ、「うまくいっている」と断言できる企業はわずか12%でした。

──たった12%ですか!

越川:多くの企業が成果を上げられない理由は2つあります。

まず、目的と手段をはき違えていること。働き方改革はあくまでもゴールを達成するための手段に過ぎないのに、それ自体が目的になってしまい、「何のために」必要なのかという明確なゴールが設定されていないのです。

2つ目は、現場の社員に腹落ち感がないこと。現状業務調整なく、夜7時にオフィスの電気を落とされて上司から「早く帰れ」と言われた社員は、カフェに仕事を持ち込んで続きをします。実際にオフィス街のカフェでは、夜7時から8時にかけて売上が急増しています。これでは、「働かせ方改革」ですよね。トップダウンとボトムアップ、双方で同じゴールを目指すことが重要です。

──2つの問題点を解決するために、どのようなコンサルティングをされるのですか。

越川:1つ目については経営の根幹にかかわるので、経営企画室の方と話し合います。他部門を巻き込みやすく、経営者にも近いポジションですから話が早い。働き方改革は、「会社の成長」と「社員の幸せ」の両立を目指すべきで、残業時間が減っても、売上と社員のモチベーションが落ちてしまったのでは本末転倒です。目的を明確にするだけで、働き方改革の成功率は3倍に跳ね上がります。

2つ目の腹落ち感については、部門横断のプロジェクトチームといっしょに取り組みます。社員の皆さん向けに半年くらいかけて、「なぜ働くのか」「どういうときに働きがいを感じるか」「100年時代を見据えたとき、今何をすべきか」などをテーマにした腹落ちワークショップを開催します。

「働きやすさ」よりも目指すべきは「働きがい」

──なぜ、社員の幸せを実現しようとすると時短に行き着くのでしょう。

越川:当社の調査によれば、働く人が幸せだと感じることの8割は、家族との時間や趣味など社外にあります。つまり社員の幸せを考えるなら、働く時間は短いほうがいいわけですね。これを気づかせることで社員の腹落ち感につながります。

ここで混同してはいけないのが、「働きやすさ」と「働きがい」です。ある企業が、社員アンケートをもとにランチの無料提供を始めたのですが、ビフォーアフターで有意な違いはありませんでした。社員の思う「働きやすさ」と会社の成長がつながっていなかったのです。一方、自分の仕事に「働きがい」を感じている社員は、感じていない社員に比べて25%業務効率が高く、営業部門に特化すると営業売上は1.6倍高いことがわかりました。

「働きがい」があると、社員も会社もメリットがある。ですから、働き方改革を成功させたいなら、「働きやすさ」よりも、「働きがい」を社員が感じれるほうが効果的なのです。

──「働きがい」ですか。それを感じる仕事環境とは?

越川:働きがいを感じている人の8割は、仕事を通して「承認」「達成」「自由」という3つの要素を満たしています。

「承認」とは社内外で必要とされていると感じることですね。「達成」は目標を成し遂げた時に味わえる感覚です。日本企業は欧米に比べて職責が明確でないので、部門によっては感じにくいのが難点ですが…。例えば、営業のように数字で結果が出る部門と違い、経理は何をもって達成を感じるのかわかりにくいですよね。ですからまずは、各部門で目標を決めるといいでしょう。社員は目標がないと作業充実感で仕事をしてしまいます。行動目標でもいい。例えば、会議のための会議をやめようとか。

最後の要素である「自由」とは、裁量権です。自分の責任範囲が大きいと、やりがいを感じやすくなります。

立ち止まって振り返り、無駄に気付くことの重要性

──社員の幸せのための時短ですが、生産性を落とさずに労働時間を短縮するポイントは?

越川:最初に各部門、一人ひとりが立ち止まって仕事の棚卸をすることです。労働時間の6割を占めているのは、メール、資料作成、社内会議なのですが、これらは振り返ってみないと効果がわかりません。以前、クライアントの許可を取って8,000時間、会議の模様を撮影して検証したところ、そのうち4割はアジェンダのない定例会議でした。

そのため無目的な会議はやめて、その分お客様と接することに時間を使ってもらったら、売上が向上しました。資料も美麗である必要はない。検証に基づき、「1ページあたりの文字数は100文字程度、色は3色以内」というルールを定めたら、資料作成にかかる時間を2割削減でき、しかも契約率は22%アップしました。

──クロスリバー社は、「週30時間労働、週休3日」を実践していらっしゃいます。やはり、無駄を省くことで、短時間でも高い生産性を維持されているのでしょうか。

越川:そうですね。当社は私を含め38人ですが、全世界に散らばっています。以前はオンラインで会議をしていたのですが、AIで分析したら、会議中に内職しているメンバーがけっこういました。会議の意味がないとわかったので、情報共有のための会議はやめました。情報共有はメールやチャットツールで十分です。

ただ、アイディア出しの会議だけは残しました。アイディアは出れば出るほど良いが、デジタルでは現場の空気感が感じられないので、そういう会議は対面式のほうが効果的なのです。日本のメンバーは東京で、海外在住のメンバーを集めるときはアメリカに僕が出向きます。

──わざわざ渡米するだけの意味があるんですね。

越川:ええ、Face to Faceはこれからの時代、より重要視されると思います。ネットで誰もがアクセスできる情報には大きな価値はない。人から直接、得られる情報こそが貴重になります。そうしたアナログなつながりを保持するために、無駄を廃して時間を作るのです。そのため、情報共有の会議をやめ、事務所を構えるのもやめたので、通勤時間も削減できました。

何が無駄なのかを知るためには、PDCAのC(Check:振り返り)がとても大切です。クライアントにも、コンサルティングに際して週1度15分、金曜日などに「内省タイム」を設けてもらっています。その15分間は、たばこ休憩でもコーヒータイムでもいいのですが、必ず1週間の中で無駄がなかったかどうか振り返ってもらいます。これだけで労働時間は18%減ります。気付きがいかに大事であるかわかります。

無駄を省けたという達成感が生まれると自由意志でもっとチャレンジするようになり、さらに無駄が減り、達成感が生まれ…という理想的なサイクルが回っていけば、「承認」「達成」「自由」も満たされていきます。

──御社の皆さんも、常に振り返りをされているのですか。

越川:当社の社員は皆、他に仕事の柱を持っています。医師や僧侶、経営者などさまざまですよ。その中で成果を上げるには、時間単位の労働の質を上げることが必須です。当社は週30時間しか働いてはいけないルールで、行動履歴はAIでわかりますから、各々が常に振り返り、工夫していますね。「働きがい」の自由の部分は大きいですが、その分、責任もきちんとついてきます。

私自身の無駄の省き方を紹介すると、今日の服はレンタルです。講演や取材などTPOに合わせてプロのスタイリストが選び、送ってくれるサービスを利用しています。おかげで、クローゼットの中がすっきりしました(笑)。これも、週休3日を実践するには必要な工夫です。

東京五輪と人口減少が働き方改革を加速させる

──日本でもリモートワークが推奨されるようになりましたが、目の前に部下がいない状況に抵抗を感じる管理職は一定数います。何かアドバイスはありますか。

越川:在宅勤務だと人はさぼるのか?これも、記録して検証したことがあります。結果、「在宅勤務でさぼる人は会社でもさぼっている」ことがわかりました。場所は関係なかったのです。それでも、リモートワークに抵抗がある皆さんは、意識の変革を迫るより、まずはトライすることをすすめます。

とりあえず2週間、強制的にリモートワークにしてみると、だいたい9割は成功し、納得してもらえることが多いです。意識を変えるには5年から10年かかりますから、まず行動し、その結果を振り返るほうがずっと早いですね。そこから職責を決めて、会社だろうと在宅だろうと成果を出した人を評価するという体制を、1、2年かけて整えます。

管理職の方には、「勇気を持って“部下に任せる”」、部下の方には「勇気を持って“やめることを決める”」というアドバイスを送ります。「オフィスに行く必要がない日は出勤しない」「不要な会議やメールはやめましょう」と。

──リモートワークに慣れておくと、台風などの天災にも対応できますね。

越川:天災はもちろん、東京は確実に来年の夏、五輪でたいへんなことになります。通勤時間に電車に乗れるかどうか。リモートワークをまだ導入していないなら、事業継続の観点からいっても、今がそのタイミングですね。

欧米がいち早くリモートワークに切り替えていく中で日本は大きく後れをとっていますが、日本人は元々、変化への対応力が非常に高い国民です。ただし、切羽詰まらないと動かない。来年の五輪と今後の労働人口の減少は、まさに切羽詰まった状況ですから、より働き方改革にも弾みがつくでしょう。この先7年間で人口は10%減少するといわれていますが、人手不足はAIが補います。

──AIに仕事を奪われるわけではなく、無駄を省くために活用するのですね。

越川:そのとおりです。AIが未来を創ることはありません。人が未来を創るときにAIが必要なのです。

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