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“脱オーダーメイド”に踏み切ったリブランディング。 “ふたりらしい”お祝いの形を求めて

株式会社CRAZY マーケティング責任者 松田佳大 × マイナビウエディング メディア制作統括部 編集部 部長 平田美和

長引くコロナ禍で悲鳴を上げている業界は多い。「密を避ける」という感染防止の観点から言うと、人の集まる結婚式も大きな局面に立たされた。そんなウエディング業界で、オーダーメイドウエディングと言えばその名が上がるCRAZY WEDDINGが7月に発表したのは「脱オーダーメイド」。ユーザーのみならず業界をも驚かせたその転換の背景、そしてこれから何を目指していくのかを、株式会社CRAZYのマーケティング責任者・松田佳大氏にマイナビウエディング編集部・部長の平田美和がうかがった。

オーダーメイドウエディングは役目を果たした!?

平田美和(以下 平田):CRAZY WEDDINGの「脱オーダーメイド」の発表は、私自身の中でも衝撃が走りました。CRAZYと言えばオーダーメイドというイメージですし、ゲストファーストな結婚式場「IWAI OMOTESANDO」があって、人気を集めていることももちろん聞いていましたが、かなり大きな決断でしたよね。やっぱりコロナ禍の影響が大きかったんでしょうか?

松田佳大(以下 松田):コロナ禍が長引き売り上げが減っていく中で、ここからV字回復するためにはどうしたらいいかの話し合いを、今年1月ぐらいから延々と続けていました。そこで結果的には、「脱オーダーメイド」という考えに至ったわけなんですが、実際には昨年からリブランディングはもう始まっていたんです。というのも、オーダーメイドウエディングを始めた当初は、結婚式業界で「クリエイティブ」にこだわっている会社が少なかったこともあり、とても注目されました。物珍しさもありましたよね。でも、ここ5年間で業界全体の結婚式のクオリティの水準は随分と高まりました。要因としてSNSが深く浸透したこともあると思います。僕たちは微力ながら、社会に「ここまで結婚式にこだわれるのか」という事例をたくさん生み出すことができた。そして、業界全体の結婚式のクオリティは間違いなく向上している。オーダーメイドウエディングは役割を果たし終えたんじゃないかなと思い始めていたんです。では、次に求められる結婚式のイノベーションの種はどこにあるんだろうか。そう考えた結果、誕生した式場がIWAI OMOTESANDOです。このリブランディング、脱オーダーメイドの戦略を推進したのは、このIWAIをスタンダードにしていくためのスタートだったといえます。「これまでの僕たちの象徴=オーダーメイド」のイメージをいかに覆すことができるか、その皮切りとなりました。

平田:そういう社会の感覚・イメージを感じ取って大きな決断をするというのは大事なことだとは思いますが、それでもずっと続いていたイメージを手放すというのは相当勇気が必要だったのではないでしょうか? 内部でどんなお話をされたのか、反対する方にはどうやって説得したのか、というのが気になっていました。

松田:そうですね、僕自身ももともとはオーダーメイドウエディングのプロデューサーだったので、とても心の痛みがありました。同時に、前線で頑張ってくれているメンバーの気持ちもわかります。オーダーメイドから脱却するということは、自分たちが主役じゃなくなってしまうということですから。そこに違和感を持ったメンバーには何度も時間をかけて対話をし、結果的に反対という声は1つもありませんでしたね。実は、最初はオーダーメイドを「縮小」じゃなく「撤廃」という選択肢もあったんです。でも、それは違うよねと気づきました。問題は「オーダーメイドの結婚式」にあるのではなく、CRAZY WEDDINGが社会に「オーダーメイドの選択肢」しか提供できていないことだよねと。オーダーメイドを必要としている人はいるし、お披露目を中心としない結婚式やオンラインを選択している人もいて、これからもいろいろな形のお祝いを作っていきたいとCRAZYの未来に確信を持てたきっかけになりました。

コロナ禍で問われた結婚式の本質

平田:私が最近のウエディング事情を見ていて思うのは、コロナの影響もあって少人数ウエディングやフォトウエディング、密にならないガーデンウエディングが増えてきている、といった結婚式の変化だけでなく、カップルのマインドにも変化があったと思うんです。“結婚式って何だろう? 何のために結婚式をするんだろう?”と、より本質を考えるようになったんじゃないかと個人的には感じています。たとえば、緊急事態宣言中は“結婚式って不要不急のことになるのか?”とか、“なぜ今やるのか?”といったことを考えますよね。それでいろいろ悩んで考えて、自分たちと向き合って本質を突き詰めていくわけです。このようにカップルのマインドが変化している中で、業界としてサービスの提供方法はもちろんマーケティングの方法も変化させていく必要があると思いますが、松田さんはどうお考えですか?

松田:その通りですね。実際私たちも、新型コロナウイルス感染症の影響があるからという理由ではないのですが、マーケティングの方法はこの半年間で大きく舵を切ってきました。その一つが「DtoC(Direct to Consumer)モデルへの転換」です。もちろんこれからも広告は継続的に使用していくのですが、特に僕らのようなニッチなブランドにおいては、消費者の皆さまと直接出会い、訴求する接点が重要だと考えました。今は食品業界やアパレル業界など、他業界ではよく見られるモデルですが、なぜこの会場を作ったかとか、どんな哲学を料理に込めているかなど、語れる哲学は溢れるほどある。だからこそ、それを伝える主体は広告ではなく僕たち自身でなければいけないよね、と考えるに至りました。そこから、マーケティングチームを組織して、CRAZYのテーマである「愛」についての連載記事を作ったり、全社員でSNSを強化したりと、さまざまな活動を始めています。

平田:なるほど、「愛」についての連載記事というのはCRAZYさんらしくて面白いですね。「発信」でいうと、マイナビウエディングでは「くふう婚」のハッシュタグで、さまざまな工夫をこらした結婚式をカップルに投稿してもらい、サイトでご紹介したりしているんです。というのも、コロナ禍で、よりゲストへのおもてなしを重視するような動きが増えてきて、感染症対策のアイテム・演出にも、ゲストが楽しめるような工夫を凝らしている方が多いんですね。それを発信していくことで、みなさんがより結婚式に前向きになっていただけるといいなと思っています。松田さんは、結婚式の変化を何か感じていますか?

カップルとゲストが近い距離で共に楽しい時間を過ごすことのできるIWAI OMOTESANDO @株式会社CRAZY

 

松田:結婚式って、打ち上げ花火みたいなものじゃないですか。特にオーダーメイドはめちゃくちゃ大変なんですよね。前の晩は緊張で眠れないくらい一球入魂で達成感もあります。でも、時代の価値観として、そういう瞬間的なものに投資をしようという考えはメジャーではなくなっているように思います。結婚式にたくさんのお金と時間をかけて準備をして、たった一日でそれを発散するのももちろん素晴らしい。でもどこかで、もう少しサステナブルなものに投資をしたいというニーズって強くなっているように思うんです。だから僕らは、そんな消費者のみなさまのニーズにあわせて変わっていく必要があると考えています。最近考えているのは、CRAZYとおふたりの接点を結婚式だけの付き合い、点で終わるのではなくて、それを伸ばして線にしていきたいと思っています。たとえば、婚姻届を出す節目にIWAIで写真を撮影できる「ふうふ始季」という機会があったり、結婚記念日にお食事をしに来ていただける機会があったり。他にも出産や成人など、さまざまなシーンでお役に立ちたいですね。

平田:それはいいですね。私も個人的には何周年記念といったお祝いをしたいと思う派なので、式を挙げた会場で何年も楽しめるのは魅力的だと思います。確かにふうふ生活って結婚してからが長いですから、結婚式から繋がりができて長く付き合えるのは凄く素敵ですね。特にCRAZYさんがやるというのは、ユーザーとしてもワクワク感があるんじゃないかと思います。

結婚式をカッコいいものにしたい

平田:ところで、松田さんはCRAZYに入社される前は人材関係の会社で営業の仕事をされていたんですよね? そこからのウエディング事業への転職というのは、どういうきっかけがあったんでしょうか? あと松田さんは、学生時代アカペラのグループを組んでいて「ハモネプリーグ」で優勝されたことがあるとうかがいました! 編集部にも大ファンがいるんですが、そのこととも関係があるのでしょうか?(笑)

松田:大ファン! それは嬉しいです。ありがとうございます(笑)。拍子抜けされてしまうかもしれないですが、僕は特にウエディング業界に興味があったからというより、CRAZYの精神性に惹かれて飛び込んだんですよね。妥協しない人生を目指している姿勢とか、理想や夢など青臭い言葉を堂々と口にするカルチャーとか。当時、ある求人サイトで「仕事とは“LIFE”だと言い切れる人募集ー」という不思議なタイトルの求人があったのですが、そんないろいろな自分の状況とやけにマッチして、僕ももっと自分の人生を燃やして生きていきたいと突き動かされ、転職を決めました。前職も非常に素敵な環境とメンバーに囲まれていましたが、やはり大企業とベンチャーの差は強く感じていました。CRAZYと出会っていなければ、あのままずっと前の会社で働いていたと思います。おっしゃる通り、僕は歌もやっていて演出や企画は僕が担当することが多かったので、そのあたりはオーダーメイドの結婚式にとてもフィットしていました。

平田:それはまさかの告白ですね。その結果はどうだったんでしょうか? 異業種への転職なので苦労されたことはなかったですか?

松田:クリエイティブの世界はまったく分からなかったので、最初のほうが苦労だらけでしたね。でも、毎週お客様の人生に触れ、1組1組違った演出やコンテンツを企画する仕事はまるでエンターテイメントのようで、不思議と嫌になることはまったくありませんでした。僕の根底に大きくあるのはもっと結婚式をカッコよくしたいという思いです。こう言ってはいけないかもしれないですが、まだまだ業界的には社会から遅れている部分があるので、それを変えていきたい。イノベーションを起こす余地はまだまだありますから、どんどんアイデアを出して、お客様が本当に望んでいるサービスやプロダクトを作り出していきたいですね。結婚式をカッコよくすること、それが今の一番のやりがいです。

平田:カッコよくすることと関連するかもしれないですが、結婚式という文化には昔からの慣習や定番の演出などが多いですよね。たとえばご祝儀の額、ファーストバイト、それにバージンロードは父親と歩くなど性別的な役割もあったり。そういったものについては、松田さんはどうお考えになりますか?

年齢・世代を超えて温かな繋がりが生まれる場所 @株式会社CRAZY

 

松田:みなさんを見ていて思うのは、伝統的なものだからこその価値、みたいなものは少なからずあるんじゃないかということですね。それが良いとか悪いとかの物差しではなく、慣習としてやる、という。成人式で振り袖を着るとか、お食い初めでは鯛をつつくとか、そういった類に近い気がしています。もちろん、他の人と違うことをするのが不安というマインドもあると思います。ご祝儀などはなかなかこれからも変化しづらいように思いますが、結婚式も一定数は多様になったので、例えばファーストバイトがない結婚式などバリエーションが増えて良いような気はします。ただ、ファーストバイトはやりたくないけど代わりに何をするかというアイデアもないので、じゃあやっておくかとなるのかもしれないですけどね。

平田:たしかに、ファーストバイトをしないなら、代替のものを作る必要はありますね。でももし、やりたくないのにやらなければいけない、という状況になっているのであれば、本人にとっては辛いことだなと。今までの常識を覆すような結婚式をやりたい人がいる一方で、松田さんのおっしゃるように人と違うことをするのが不安で冒険できない人もいます。そこはもっとみんなが自由にできるといいですよね。いろいろなカップルのカタチがあるのが理想だなと思います。

松田:そうですね。そういう意味では、やはり僕たちはどんどん選択肢を作っていきたいですね。ああ、そんなやり方もあるのかと思っていただけるような。伝統的な結婚式場も、地方にある結婚式場も、今はいろいろな企業とみんなで手を繋いで、業界全体で多様性を作っていくしかないと思っています。そんな中で、CRAZYには愛が深まる体験、愛情深いウエディングがあるよねと言っていただけるようになると嬉しいなと思います。

平田:業界が一体となって結婚式の多様性が作られていくといいですね。さっき点から線へとカップルとの繋がりの形を広げたいとおっしゃっていましたが、結婚式だけでなく、お祝いの仕方だっていろいろあっていいんですよね。ナシ婚派と言われる層が、結婚式の形にとらわれずにお祝いができる世界がもっと広がっていくといいなと思います。私たちマイナビウエディングも、どんな形であってもおふたりに寄り添えるよう、いろんな選択肢を用意できるメディアとして成長していきたいと考えています。

 

 

(まとめ)

コロナ禍で結婚式などのお祝い事は、なぜするのか、どうやってするのか、あるいはしないのか……。期せずして厳しい問いを突きつけられることになったが、それは決してマイナスではない。みんながそれぞれ“らしい”お祝いのスタイルを考える好機になったと言えるのではないか。そんな多彩な要望に、これも“らしさ”で応えてくれるのがCRAZYだと思わせてくれる松田さんの力強い言葉が印象的だった。

 

 

【構成・文:定家励子(株式会社imago)】

【写真:高橋圭司】

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