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株式会社リアルディア代表取締役社長 前刀禎明

自分を解放し、創り、超える。それがセルフ・イノベーション


斬新なプロモーションで、アップルのiPod miniを日本で大ヒットさせた前米国本社マーケティング担当バイスプレジデントの前刀禎明氏。現在は株式会社リアルディアを立ち上げ、人が成長し続けることの重要性を発信し、セルフ・イノベーションの方法論を説いている。そんな氏にこれからはどんな働き方をしていけば良いのかについてうかがった。

個性の時代と言いながら、実は画一化が進んでいるという矛盾!?

 日本を代表する電気機器メーカーのソニー、世界的なエンターテインメント企業のディズニー、そしてマッキントッシュ、iPhoneのアップル。この一見まるで別々の点を結んでいくと、創造的知性を磨くワークショップ、感性アプリの開発などを手がける株式会社リアルディア代表取締役社長・前刀禎明氏につながる。それはまるで、あのアップルの創業者スティーブ・ジョブズが、2005年に米国スタンフォード大学の卒業式で行った有名なスピーチの一節“Connecting the dots.”の通りだ。

「僕は、こうしてインタビューを受けたときなどに、経歴がバラバラですねとよく言われるんです。確かに、今まで仕事をしてきた会社は、エレクトロニクスあり、コンサルタントあり、エンターテインメントあり、インターネットありで、そこには法則性も統一性もありません。でも、どこの会社で何をしていても、自分の経験を全部活かせると思ってきたし、自分の中で繋がっているという自信はあります」

とはいえ、まったく違う分野への転身には、少なからず勇気が必要だっただろうと思う。

「ジョブズは、スタンフォード大でのスピーチで“Follow your heart and intuition”(自分の心と直感に従え)とも言っていて、人生には明確な正解もゴールもないのだから、もっと自由に、自分の人生を生きろと勧めているんです。でも、最近の日本は、“大量生産の時代から個性の時代に変わった”とか言われているけれども、みんなが個性を発揮しているようにはとても見えません。SNSやメディアが普及して、情報を得やすくなっているせいか、周囲の情報に流されてどんどん画一化している。“こうあるべき”とか“普通はこうだ”とか固定観念に縛られて、好きなように生きられていない。僕なんか、そう言われると“じゃあ、あなたの言う普通って何?”と逆に問い返してしまいます」

 そんな日本の現状を憂えて、前刀さんが提唱しているのがセルフ・イノベーションだ。

名刺の3行目で仕事をするということ

「僕は今、企業のコンサルティングなども手がけていて、商品企画チームの会議に出て若い人たちと話をする機会も多いんですが、中には自分が固定観念、既成概念というものに縛りつけられているという自覚がない人がいることに驚きます。俗に言う思考停止状態。でも、あと数十年後、自分たちがどうなっていくかをよく考えてほしい。人生100年時代と言われているけれども、日本の企業では55歳で役職定年というものがあり、それから5年、何とか会社にしがみついて定年になったとき、それまで自分を成長させ続けてこなかった人は、他に自分を活かせる仕事を見つけることに苦労するんですよ。だから僕は、セルフ・イノベーション、つまり自己革新が必要だと言っているんです

 前刀さんは、大学院を卒業して最初に就職したソニーで、役員から「名刺の3行目で勝負しなさい」と言われたことが忘れられないのだという。1行目は社名、2行目は部署や役職、3行目は自分の名前。社名や肩書きが取れてただの「前刀禎明」になったとき、自分はそれだけで勝負できるだろうか。そんな思いに突き動かされて、セルフ・イノベーションをし続けてきたのだそうだ。

セルフ・イノベーションの3つのステップとは

著書『僕は、だれの真似もしない』(アスコム)で、前刀さんは自身のセルフイノベーションの方法を詳細に記している。それを端的に示したキーワードは「5+i」。五感プラスイマジネーション、五感で感じ、想像し、行動してはじめてイノベーションになるのだという。

「セルフ・イノベーションには、3つのステップがあります。1つめは、“Free Yourself”自分を解放すること。固定観念や、いわゆる常識というような呪縛から自分を解放したら、2つめに、“Create Yourself”自分らしく生きて、自分を創っていく。ひとつのところに留まらずに、成長し続けることが大事です。その際には、人と比べて自分はどうかなんて考えるのではなくて、自分を超えようと思うこと。つまり3つめのステップは、“Exceed Yourself”です。何かを極めた人ほど、最大のライバルは自分だと言いますからね」

 ライバルと言えば、AIの進化によって、10年後にはなくなっている職業などが話題になることが多い、AIに人間が対抗する術はあるのだろうか。

「僕はAIを否定しません。AIにできることはどんどんやってもらって、人間は人間にしかできないことをどんどん進化させていくべきなんですよ。そのためにも、人は学び続け、知性を鍛え続けてラーニング・インテリジェンスを高めることが、今後ますます大事になってくると思いますね」

子どもたちは、親に調教されている!?

誰もが驚くような輝かしい経歴を経て今、前刀さんが手がけているのが、人のイマジネーション、クリエイティビティを進化させるさまざまな取り組みだ。

「僕は、ウォルト・ディズニーで働いていたこともあって、いまだにディズニーが好きなんです。ディズニーは、素晴らしく完成されたエンターテインメントで、ものすごく楽しい。けれども、そういう風に外から与えられるものだけではなくて、自分の想像力を使って遊ぶことは、もっと大事なんじゃないかと思ったんです。それで、最初は子供向けに、創造的知性を養うような教室を開いていました」

 そんな中、衝撃的な経験をしたのだという。子供に好きな絵を書いてごらんと言ったのに、花でも木でも左右対称に描き、画用紙からはみ出すことも一切ない。おやつをあげると、母親のOKがもらえるまで手をつけずに待っている。調教されていると感じたのだそうだ。

「子供たちは、親の価値観を押しつけられているんですよ。いくら教室で刺激を与えてあげても、家に帰って固定観念にがんじがらめになった親に育てられれば、すぐに戻ってしまいます。これは、子供だけではダメだと思いました。大人の価値観を変えなければいけないと思って、ここ数年は大人向けにも力を注いでいます」

「これで遊べばだれだってスティーブ・ジョブズになれる」をキャッチコピーに、リアルディアが作ったスマホ向けアプリ「DEARWONDER」は、多角的にものごとを見る力を養える。ただし、マニュアルがない。直感的に使うことを重視しているからだ。大人は最初戸惑うようだが、子供は何の疑問も持たず、さくさく自由に遊ぶのだという。

「このアプリは、ユーザーが行った動きの軌跡を記録できるのですが、今後はAIを活用して分析する機能をつけたりして、さらに効果的にラーニング・インテリジェンスを磨けるようにしていきたいですね」

若い人を頑張れと応援するよりライバルに

これからやりたいことを楽しそうに語る前刀さんは、これまでもこれからも順風満帆な人生を送っていきそうに見える。

「僕は決して楽に人生を送ってきたわけではないですよ。大学受験では、志望校を変えろと先生に強く言われたし、就職では、ソニーを受けたいと言ったら教授に止められたし、創業したライブドアは民事再生法申請の憂き目に遭い、ストレスで体調も崩しました。でも、人生には波があります。右肩上がりというと、みんなまっすぐな直線の右肩上がりを想像しますが、僕の場合は、上がった後に少し下がって、また上がって少し下がって。でも、その下がった時点は、前の頂点よりは上にいるという考え方でここまできました。そうすれば、ずっと成長し続けられますからね

 前刀さんは今年61歳。そんな年齢に見えないと、特に周囲の女性たちからは「何か若返りのためのサプリでも飲んでいるんじゃないですか?」と言われることも多いのだという。

「もし、若さを保つ秘訣があるとしたら、年齢を意識しないことですね。何歳でもいいんですが、もう自分はこれまでだなと思ったら、細胞レベルで活力を失ってしまうんだと思います。頭がそう判断して、“もういいや”となるんですよ。僕は、大器晩成型だし(笑)、仮に80歳まで働くとして、あと20年あります。それまでに、少しはたいしたことができるんじゃないかなと」

 前刀さんぐらいになれば、若手を育てて欲しいと言う要望もありそうだが、そもそも人を育てる気はないのだそうだ。ただ、一緒に育つのはあり。頑張れと応援するよりは、お前には負けるものかとお互いに切磋琢磨したいという。「気づきはきっかけでしかない。気づいたことを習慣化し身に付けて、始めて学びになる」と語る前刀さんのセルフ・イノベーションは、一朝一夕に実現できるものではないかもしれない。しかし、いつかライバルとして認められるように、成長し続けていきたいと思う。

【取材・文:定家励子(imago)】

 

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