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「働く」ことは楽しい!カスタマイズして実現する、女性が活躍できる働き方

Business Insider Japan 統括編集長 浜田敬子

女性の就業率が2018年9月に初めて7割を超え(総務省「労働力調査」より)、“女性が働く”ことはもはや当たり前といえる時代が来ている。しかし、キャリア女性を長く取材してきた、「Business Insider Japan(ビジネスインサイダージャパン)」統括編集長の浜田敬子氏(前・AERA編集長)は、「若い世代は、今も罪悪感や息苦しさの中で働いているのでは?」と疑問を投げかける。浜田氏に各世代の女性が抱く悩みと、彼女たちが働きやすい職場を作るための方策を聞いた。

均等法世代は仕事か子育ての二者択一

――浜田さんは11月に出版した著書『働く女子と罪悪感』(集英社)で、女性のキャリア観が世代によって変化したことを指摘しています。

浜田:私たち均等法世代(※)の女性は、働くことと子育てを比べると、働き続けるための制度も整っておらず、子育てをすることが第一の選択でしたが、働くことを選んだのならば男性と同じ働き方を求められました。出産後も働き続けるなら、基本的には“子育てを誰かに任せる”と割り切るしかなかったのです。
私も故郷の山口県から両親を呼び寄せ、ベビーシッターなどもフル活用しました。職場では子供のことを思い出しもせず「私には母性がないのか」と悩むほどでした。

※男女雇用機会均等法が施行された1986年頃に就職した人たちのこと



――40代や、それ以下の世代の意識は変わりましたか。

浜田:40代前半以降の世代になると、女性が働くことへの周囲の理解は以前より深まったとは思います。しかし働き続けるための制度が整ってきた分、仕事もしながら子育ても、というプレッシャーは強まり、より悩みが深くなっているかもしれません。子育ても自分でやらなくてはいけないと思うあまり、彼女たちの多くは子供を長時間預けたり、育児サービスを使ったりすることに罪悪感を抱いている人が多いと思います。30代で出産した場合、親世代がまだ仕事や介護を抱えていることも多く、育児を全面的に任せることもできません。さらに、夫は残業続きで育児を頼みづらい。例えば、銀行の総合職等には、転勤と夫の長時間労働のために仕事を辞めたり、自らキャリアダウンしたりする女性がたくさんいます。
しかし、最近の30代女性は、育児休業を取って復職する女性も増えてきました。その分、しっかりキャリアを積みたい人、どちらかといえば育児など生活に重きを置きたい人など、働く女性と一口に言っても、価値観は多様化しています。
同時に、この世代は育児と仕事の両立への不安も増しています。彼女たちを見ていると、女性の働き方は、昔に比べて自由になったように見えて、実は息苦しさが増した面もあると感じます。


                               
※浜田敬子著「働く女子と罪悪感」より引用

なぜ、若年層に早婚願望が強まっているのか?

――息苦しさとは、どのようなことでしょうか。

浜田:
米フェイスブックCOOのシェリル・サンドバーグが、若い女性は「幻の赤ちゃんを抱いている」と著書で指摘しています。20~30代の女性は妊娠・出産を想定して、両立の難しそうな仕事を初めから敬遠し、能力はあるのにキャリアへの挑戦を避ける空気も広がっています。
大学生と話すと「両立できるか心配なので、就職しないで大学院に行く」「内定が出たが地方支店に配属された。彼と遠距離恋愛になりたくないので内定を辞退してアルバイトを続けたい」等の声があり、驚かされました。

――なぜそのように考えるのでしょう。

浜田:「高齢出産はリスクがある」といった情報に過剰に反応していることが一因だと思います。彼女たちは30歳くらいで出産したいから25歳くらいで結婚したい、それなら20代で身に付けるべき能力はこれとこれ…と、逆算してキャリアを積もうとします。
20代のある女性は、2年でだいたい仕事を覚えて転職するというサイクルを3回繰り返していました。これでは自分のキャリア形成に追われるばかりで、目の前の仕事に全力投球するのは難しいのではないでしょうか。希望どおりの業務に就けないなどキャリアプランが狂ったときに、心が折れてしまう懸念もあります。若い女性たちは結婚、出産、仕事のスキルといった、人生に必要な「スペック」を一刻も早く整えようとして、余裕を失って生き急いでいるように見えます。

ワーママのがんばりは限界に来ている

――浜田さんは、そんな「働く女性」の後輩たちに、イラッとさせられることはないですか?

浜田:イラっというより、心配になります。「私はここまでやっているのに、どうしてやらないの?」という思いが顔に出たことも、正直ありました。でも、それは私の価値観に彼女たちを合わせようとするからであって、「してはいけないこと」と自覚しています。彼女たちの気持ちを尊重し、気持ち良く働いてもらったほうが、職場にとっても絶対にプラスなのです。
後輩のワーキングマザーたちが、ものすごく努力しているのもわかっています。朝5時に起きて記事を書き、子供を寝かしつけながらメールに返信する。彼女たちの苦労の源は、夫たちとその職場にあるといっても過言ではありません。夫が連日終電で帰宅したり単身赴任だったりで、ワンオペ育児にならざるをえない。しかし、ワーママのがんばりだけでは、もう限界なのです。



――「働き方改革」などで企業の環境整備は進んでいるように見えますが、不十分ですか?

浜田:制度はあっても経営層や管理職の意識が変わらなければ、職場は改善されません。商社や金融といった日本の大手企業には、「上司より先に帰宅できない」「連日、飲み会に連れ出される」といった風土がいまだに根強く残っています。夫の職場、つまり男性の働き方を変える必要があるのです。
さらに、経営層は若い女性たちにも、均等法世代の働き方を押し付けて「後輩のお前たちも同じくらいがんばれ」とプレッシャーをかけます。しかし、30代より下の世代は、男女ともに生活重視の考え方が広がっています。経営層が意識を変えられない企業からは優秀な人材が流出し、生き残れなくなると思います。

時短社員も戦力の1人と考える

――浜田さんはこれまで、部下が働きやすい職場をどのように作ってきたのでしょうか。

浜田:私はある意味、とても「人使いが荒い」です(笑)。出産する部下に「1カ月でも早く戻ってきて」とお願いしたこともあります。
日本では、時短勤務の女性に雑用ばかりさせるような職場もまだ存在します。彼女たちが居なくても職場が回るということは、企業にまだ余裕があるのかもしれません。時短社員を戦力から外して職場を「マイナス1」の状態にするより、むしろ短い時間でもモチベーションが高くなれば、時間は減っても貴重な戦力の1人になります。時間に制限があるとはいえ、できる場所でできるときに仕事をしてもらえば、それ以上の成果を出してもらうことも可能でしょう。



※浜田敬子著「働く女子と罪悪感」より引用

――他の社員等の負担が大きくなりませんか。

浜田:若手社員を中心に他の社員には、やりがいのある仕事と評価、可能なら報酬の上乗せをセットで提供し、「大変かもしれないけどがんばって」とお願いする。少人数で、制約のある社員が多い職場であっても、この方法なら皆が納得感を持ちながら、仕事を進行できる可能性が高くなります。
現在の職場も、子育てや介護、遠距離通勤など、みんながそれぞれさまざまな事情を抱えています。だから、男女を問わずリモートワークのほうが働きやすい人はその働き方でいい。私も時々子供の事情で、家で仕事をしています。

育児、介護…事情に合わせて働き方を「カスタマイズ」

――職場のトップとして、気を付けていることはありますか。

浜田:すべての部下に「フェア」に対応することです。フェアというのは、全員の条件を同じにすることではありません。各人がどれだけ配慮が必要かに応じて、働く場所や時間、業務量などを「カスタマイズ」し、その理由を同僚たちにも伝えて納得してもらうことだと思います。
管理職にとっては面倒くさい作業かもしれません。ですが私自身も、学校の保護者会で職場を抜けたり、子供が発熱したときは在宅勤務に切り替えたりと、カスタマイズを必要としています。誰もが「今日2時間抜けるね」と、気軽に言える職場にしたいと思っています。

――浜田さんが今、若い世代に伝えたいメッセージはありますか。

浜田:40代にはまず、「働きながら子育てすることに罪悪感を抱かなくていいよ」と言ってあげたいですね。
この年代の女性からは「管理職就任を打診されたが、務める自信がない」という声もよく聞きます。しかし、複数の部下を使って大きな仕事を作り上げていくスピード感やダイナミズムは、平社員では味わえません。部下に少しだけ負荷の高い仕事を与え、育てていく醍醐味もあります。リモートワークを取り入れるなど、自分や部下が働きやすい職場を作る裁量も広がります。管理職は苦労も増えますが、やりがいも大きいことをぜひ知ってほしいです。
そして、30代以下の女性たちには、「この程度でいい」と、自らキャリアに蓋をしないでと伝えたいです。先のことを考えすぎずに全力で仕事をして、まず仕事の楽しさを味わってほしい。両立が必要になったら、そのときに方法を考えればいいのです。自分の力で一つひとつキャリアの扉を開けていけば、チャンスは広がるのですから。

(構成・文 有馬知子)

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