マイナビ

トレンドnavitrend navi

情勢の変化はチャンスでもある。お客様の思いに寄り添い課題解決をはかるのが銀行の使命

株式会社三井住友銀行 菅家哲朗 × マイナビ編集長 高橋誠人

コロナ禍を持ち出すまでもなく、社会の状況は常に同じということはありえない。むしろ変化の速度は日に日に速まっており、どんな業界でも変化に素早く対応することは急務。企業の存亡を左右しかねないからだ。金融もそんな課題を抱えている業界のひとつ。なかでも三井住友銀行(以下、SMBC)は、金融の枠組みを超えた新たな挑戦に取り組んで業界をリードしている。マイナビ編集長の高橋誠人が、そんな同グループの人材採用・人材戦略はどのようなものなのかSMBC 人事部・採用グループ長の菅家哲朗氏に伺う。

銀行の使命を果たすため、人事戦略も多様化を

高橋誠人(以下、高橋):私は仕事柄、いろいろな業界・企業の人事を担当する皆様からお話を伺うんですが、時代の状況の見方はそれぞれ違います。金融業界、特に銀行としてSMBCは今をどのように受け止められていますか? また時代の状況を反映して人材育成や採用に関して戦略があれば、それをお聞かせいただきたいです。

菅家哲朗(以下、菅家):VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)という言葉に象徴されるように非常に変化が激しい時代ですね。デジタル化による金融インフラの在り方も変わってきていますし、共働き、介護世帯の増加に伴って働くことの価値観も多様化しています。またSDGsといった従来の資本主義の常識を根底から覆すような考え方も出てきているので、企業としても常に変化を求められる。SMBCはお客さまや社会のニーズが変わっていくであろう未来を見据え、時代をきちんと見つめていかねばならないと思っています。

我々にとって社会情勢の変化は試練ですが、一方でチャンスでもあります。銀行の存在意義とは何か、どうすればお客様に選ばれて社会に価値を還元することができるのかを、まさにこういう時代だからこそ突き詰めていかなければいけないし、今が進化するチャンスなんです。我々商業銀行の使命は、経営者の思いに寄り添いしっかり支えていくことによって経済の発展に貢献していくこと。お客様の発展を願い、社会課題の解決に取り組んでいくという貢献の在り方も多様化しているので、銀行もその使命を果たすため、価値を最大限に発揮するためにも、人事戦略も多様化する必要があると考えています。

人事戦略については人材育成を重視し、“Be a Challenger”をスローガンに人事制度の改定を実施しました。頑張った人が正当に評価されること、あくなき成長意欲を持つプロフェッショナルな人材が、失敗を怖れず心おきなく挑戦できるような環境整備を目指して、社内SNSを活用したり、エンゲージメントを高めたりできるような取り組みを行っています。

高橋:今、どこを見ても先が読めない、誰も正解がわからないような状況にあって、“未来を予測するためには自分が未来を作っていくしかない”と言った人がいるんですが、今のお話にもこの言葉と共通する視点があるように感じました。強いですね、さすがだと思いました。私は20年近く就活をする学生を見ていますが、彼らの志向も変わってきていて、元気な学生が金融業界に行って活躍するという時代から、安定を求めて金融へという時期を経て、今は“金融機関って何?”とピンとこない学生も増えています。ですが今、御行の前向きにチャレンジするという姿勢をうかがってすごく魅力的に感じました。

ただ、それを採用に反映する、そのための企業のブランディングという側面から言うと、簡単ではないと思いますが、金融機関もそれに挑戦する時代になったんだなと感慨深いです。人事制度改革などに対して、社内での反応はどうだったのでしょうか?

菅家:企業カルチャーというのは、一筋縄では変わりませんね。“Be a Challenger”とか“変革と挑戦が大事だ”と言って、経営が社員に意識してほしいといくら強く発信したとしても、末端まではなかなか伝わっていかない。今日私は私服で来させていただいているんですが、ニュースなどでも話題になったこの“ドレスコードフリー”も実は私が推進しました。もちろん、私服になったからといってすごいアイデアを思いつくことができるとか、そういうことではありません。“銀行員=スーツ”という固定概念を根底から変えてみることで、前例や常識にとらわれずに、自由な発想で革新的に物事を、ビジネスを考えてほしいというメッセージなんです。最初は抵抗を示す声もありましたが、今ではここ本店のビルにいる人の8~9割は私服で、変わってきたなと実感しています。たとえば、学生さんと話しているときも“今日は私服なんですか?”と聞かれることも当然あったりして、我々自身が変わろうとしていることを学生さんも感じてくださっているんだなと思います。

何を残して何を変えるか。時代を見つめジャッジしていく力が重要

高橋:学生も“銀行員=スーツ”というイメージがあるでしょうから、ただ“Be a Challenger”とスローガンに掲げるだけじゃなくて、みなさんが私服で現れたら本気度がより伝わりますね。こういう先行きが見えない状況で不安感を持っている学生に、どういう企業に就職したいかとアンケートをとると、重視するのは“安定”という声が多い。そこでそれはどういう意味の安定かを聞いたことがあるんです。すると何名かの学生は「先行きが不透明な時代だからこそ、挑戦していく企業」を安定と定義しているらしい。私の世代は大企業だから安定しているという考え方が普通でしたが、今の若い人たちの安定はどんどん変革していく、状況に合わせてトランスフォームしていく、そういう企業が安定している企業だと思うと聞いたとき、若い人たちはずいぶん変わったんだなと思いました。そういう学生達の価値観からすれば、御行は魅力的に映りますね。

御行の採用人数が減ってきているのも金融業界でDXに最初に取り組んだからであって、そういう意味でも挑戦的です。私は常々、金融業界が他の業界をリードしていくんだと伝えてきたんですが、間違っていなかったなと今、実感しています。

菅家:私自身、さきほどから変革や挑戦というワードを口にして、失敗を怖がって挑戦しない人より、失敗しても何度でも立ち上がって挑戦する人材を求めていると申し上げているんですが、じゃあ銀行はガラガラポンで全部変わって良いかというと、そうではないところがあることも事実です。我々は商業銀行ですから、今まで培ってきたお客様との長い歴史、緊密なリレーションシップを前提としてビジネスが成り立っています。それらを全て変えればいいのではなく何を残して何を変えるか、それをジャッジする力も求められています。冒頭に時代を見つめることが大事と申し上げましたが、5年10年同じことをやっていては、確実に取り残されます。なによりお客様に選ばれなくなってしまう。そういう危機感のもと、変革し挑戦する気概を持ちつつも、しっかりと周囲を俯瞰しながら、正しく判断して行動できること。かなり難しいことではありますが、今はそういう人材が求められているし、我々も作っていかねばならないと思っています。

高橋:採用でそのような人材を求めるということもあると思いますが、すでに御行で活躍している人材、特に若手に対しての教育ではどのような取り組みをされていますか?

菅家:入行1、2年目の若手の方々に対しては、人事部の研修を司るセクションがかなりしっかりとしたプログラムを作り、昨年から更に強化しています。銀行員として必要な基礎的な知識はもちろんのこと、将来的にどんなキャリアを歩むにしても、対お客様で必要となるスキルを1、2年目できちんと身に着け、自己成長していけるようなシステムになっています。企業においてはOJTで学べる部分ももちろんありますが、このような教育システム、つまりOff-JTでOJTを底上げしていく、この両輪で人材育成を行っています。

仕事を通じて会社、社会、そして社会の課題解決に貢献する。エンゲージメントの重要性

高橋:私が最近学生と話していて感じるのは、その企業に入ったらどんな教育をしてくれて、スキルを身に着けることができるのかなどを気にする傾向が強いことです。本来ならそれだけでなく、自分は企業にどれだけ貢献できるのか、それを通じて結果的にお客様や地域にどれだけの貢献ができるのかという視点を持つべきじゃないかと思っています。ただ、その要因のひとつとして、育ってきた時代も関係していると思っていて、キャリアやスキルアップにばかり目が向くのは彼らのせいではないのでしょうね。

菅家: 1つの会社にずっと居続ける就社という感覚は薄れつつあるし、中途採用市場も活性化していますから、その企業で何を得られるかが学生としても大事な判断になっているのはわかります。ですから、うちとしてもSMBCに入ったらどんなスキルが身につき、どれだけの裁量が与えられるのかといったことは意識的にお伝えするようにしています。一方で、高橋さんのおっしゃる貢献についてもその通りだと思います。我々も行員が自発的に組織やお客さま、社会への貢献度を高めたいと思ってもらえるよう、“エンゲージメント”を重視しています。エンゲージメントとは、単に自身のモチベーションだけではなく、仕事を通じて会社、そして社会の課題解決に貢献できていると実感しながら働けている良い状態を示すのですが、人事施策もこのエンゲージメントを柱に据えて行っています。そして、貢献という意味ではSDGsについてもセミナーなどで学生さんからよく聞かれます。重視している方が多いのかなという印象ですね。

高橋:弊社のアンケートでも地域貢献とか社会貢献というワードへの関心は年々高まっている印象があります。今やSDGsやESGなくして事業は語れないですから。若い人たちの方が私たち世代よりピンときているというのはアンケートを見ていてもわかります。

菅家:SMBCには、経営企画部の中にサステナビリティ推進室という部署があり、グループとしてサステナビリティをどうやって進めていくかを考える一方で、お客様とともにサステナビリティにいかに取り組むかを考えるフロントに近い部署もあります。企業、業界によってSDGsにはいろいろな取り組み方があると思いますが、銀行として特徴的なのは我々自身がどのように貢献するかのみならず、お客様の行動を通じてどう社会に還元していくかという方法もあるということ。これは他にはない貢献の仕方だと思っています。

高橋:ちなみに、菅家さん自身はどのような思いをもってSMBCに入られたんでしょうか? 今までの熱い想いを伺っていて、がぜん興味が湧きました(笑)。

菅家:すみません、自己紹介が最後になってしまいました(笑)。私は端的に申し上げて崇高な思いで就活をしていたわけではないんですが、軸としていたのは日本ほど便利で安全で、四季もあって暮らしやすい国はないなということ。素晴らしい技術を持っている企業もたくさんあるので、そういった企業を支援しながら、ひいては国益に資するような仕事がしたいなと漠然と思っていました。それを軸にいろんな企業を見させていただいて、最終的には金融業界の中でもメガバンク、特にSMBCだったらそれが一番実現できそうだなと思って入行しました。

入行して法人営業部に3年在籍したのちに市場営業部門へ。そのうち1年はロンドンの英国系投資銀行に行ったりもしましたが、戻ってきて人事部門で仕事をするようになって5年半ぐらいたったところです。人事はお客様と直接接する機会はありませんが、社会の潮流を踏まえて銀行全体としてお客様に信頼され続けるために人事戦略はどうあるべきか。学生のみなさんにどういうメッセージを伝えてエントリーしていただくかをしっかり考えていくという意味では非常にインパクトの大きい仕事じゃないかと思っています。

高橋:なるほど、そういうことだったんですね。今の学生は、受験でもなんでも失敗を避けて学校を卒業して就職という方が多いので、個人的には挫折経験が少ないのではないかと思うんです。でも、SMBCのように変化を怖れず挑戦する人材を求めている、企業としても果敢にチャレンジしていくという姿勢が前面に出ているのは良いですね。良いメッセージがいただけたと思います。ありがとうございました。

 

(まとめ)

社会をより良くするため、課題に取り組むにはいろいろな方法がある。直接的に手を動かさなくても、エンゲージメントする相手の行動を通じての貢献という方法があることに、改めて気づかされた。菅家氏は最後に「学生の皆さんには可能性が無限に広がっている。変化を怖れず楽しむぐらいの気持ちで夢を持って挑戦してほしい」と語った。それは学生だけではなく、すべての人への言葉として受け止めたい。

 

【構成・文:定家励子(株式会社imago)】

【写真:高橋圭司】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事
新着記事

トレンドnaviトップへ