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さくら事務所代表取締役会長/不動産コンサルタント 長嶋修

これからの不動産選びに不可欠な“新しい視点”


日本の働き方が変わりつつある。今後、出社せずに働くリモートワーク化が進んでいけば、住む場所を通勤圏にこだわらずに決められるのではないか。そうなったら、何をもって住む場所を選べばよいのか…。

今回取材したさくら事務所代表取締役会長/不動産コンサルタントの第一人者である長嶋修さんは、「不動産は選ぶ条件によって将来の資産価値が大きく変わる。資産価値が落ちない物件にはある条件が必要」という。その条件とは何なのか、不動産市場の最新トレンドと今後の見通しについて話を聞いた。

不動産市場のトレンドは三極化

――これからの不動産市場のトレンドを教えてください。

長嶋:2012年に民主党から自民党へと政権交代して以来、株価は上昇トレンドとなっています。不動産価格も足並みをそろえているように見えますが、実際は物件による格差が大きく、三極化している状態です。
その内訳は「今後、価格維持あるいは上昇する物件」「今後、だらだら下落する物件」「今後、価値がなくなる、もしくはマイナスになる物件」この3つです。
今後、価格維持あるいは上昇する物件は全体の15%にすぎません。このグループに入る物件というと、都心の一等地をイメージされるかもしれませんが、リゾート需要が高かったり再開発が進んでいたりする沖縄や北海道の一部も含まれています。今後、だらだら下落する物件は全体の70%、価値がなくなる、もしくはマイナスになる物件は15%と予測されます。
ここでいうマイナスとは、無料で土地を譲渡した上、土地に立っている古い建物の解体費用も持つという意味で、そこまでしないと処分できない物件を指します。では、なぜここまで差が開いてしまったのでしょうか。物件の価値を三極化した最大の要因は「土地」、つまりその物件が立つ場所です。

失敗しない不動産選び1 「どこ」に買うか

――働き方も変われば、通勤を意識しなくても良くなります。今後の立地選びは、どのような目線で行えば良いのでしょうか。

長嶋:毎日の通勤が不要となり、住まいの選択肢は増えるかもしれません。ただし、だからといってどこでもいいと考えるのは危険です。今、過疎化するベッドタウンが問題になりつつあることをご存じでしょうか。

(イメージ)

1980年代初頭に人気を集めた建売住宅地が、駅から遠いために新しい人が入居せず、元からいる住人は高齢化に伴い駅近のマンションに住み替えたり施設に移ったりして、空き家が増えているのです。現在、駅徒歩7分圏内の新築マンションに人気が集中しているのはそういった動きも影響しているのでしょう。
街が快適に機能するためには、一定の住人が必要です。つまり、選ぶべき立地条件は「若年層の定期的な流入があること」なのです。

――若年層が集まるのは、やはり都心でしょうか?

長嶋:確かに都心であれば、放っておいても若年層は集まります。では、都心以外はどうでしょうか。実は、中心地でないにもかかわらず、地価の上昇が見込める地域は存在します。そのキーワードは自治体です。例えば、千葉県の流山市は着実に人口を増やしていますが、これは自治体の考え抜かれたうえでの取り組みの結果です。
人口を増やすには働き盛りである子育て世代に選ばれることが重要だと考え、良質な住環境の整備や子育て・教育環境の整備に積極的に取り組んだのです。駅と保育園を結ぶ送迎サービス「駅前送迎保育ステーション」を作ったり、子育て世代向けのイベントや交流できる場を数多く設けたりした結果、図のように若年層の人口は増えたのです。

出典:流山市

同じような成功例は北海道にもあります。旭川から北へ約100kmの位置にある下川町。土地の約90%が森林であるこの町は、余分な木材をバイオマス発電に利用して新たな雇用を創出するのと同時に、浮いた燃料費から約1,000万円を子育て支援に回しました。また、そこから不妊治療にも補助金が出ています。こうした政策が功を奏し、周辺自治体の地価が下げ止まらないなか、下川町の中心市街地は数年前から下げ止まりを見せるようになっています。

この成功している2つの自治体に共通するのは、外部への支出を抑え、どれだけ域内で回すかという、優れた“経営感覚”です。今は不動産価格にそう差がなくても10年後には周辺の市町村と大きく差が出るでしょう。自治体選びは慎重にすべきものなのです。

――良い自治体の中で、さらに選ぶポイントとしては何かありますか?

長嶋:はい、特に今後の日本社会において重要な土地選びのポイントがあります。それが居住誘導区域です。日本の人口減少と比例して税収も減少しますが、そうなると従来のように、まんべんなく手厚い公共サービスを行き渡らせることが難しくなります。そこで、都市機能をできるだけ集約しようという動きが出てきました。それが居住誘導区域です。

出典:国土交通省

大抵は駅の周辺になりますが、「できるだけこの地域に住んでくださいね」という呼びかけをし、そこに上下水道のインフラ、病院や学校、介護および子育てサービスを集中させ、税金を効率良く運用していこうというものです。居住誘導区域から外れた場所は、いずれはゴミの収集回数が少なくなったり、バスの停留所がなくなったりする可能性があります。全国約1,740の自治体のうち、すでに約400の自治体がこうした「町の縮小化」に着手しています。居住誘導区域は自治体のサイトなどで確認できますので、「働き方改革により、せっかく静かで快適な暮らしが手に入ると思ったのに、いつの間にかどんどん不便になっていく…」ということにならないよう、不動産を購入する際には居住誘導区域の区域内であることを確認する必要があるでしょう。

失敗しない不動産選び2 「何」を買うか

――場所のポイントはわかりました。では、その場所で何を買えばいいのでしょうか?

長嶋:場所が良いのであれば、「戸建て」か「マンション」か、また「新築」か「中古」かは、買う人それぞれのライフスタイルや予算に合わせて選ぶべきものです。ただ、今後、価値基準が変化する物があります。それは中古住宅市場です。
これまで日本の住宅は、木造の場合、20~25年ほどで「建物の市場価値はゼロ」とされていました。しかし、実際は築50年でも状態が良好な建物はあります。そこで、築年数は無視して建物本来の性能を正しく評価する試みが進んでいます。国土交通省は、2025年までに中古市場を倍増する計画を発表しています。あくまで場所が良いことを含めてですが、良質な住宅が適正に評価される文化が根付けば、定期的なリフォームやメンテナンスで良い状態を保った住まいの資産価値は維持できるのです。
また、マンションの場合は自分でメンテナンスをすることができませんので、管理組合の運営状態がとても大切です。残念ながら現在、この部分は市場価格に反映されていません。年数が経つとマンションには定期的な大規模修繕が必要ですが、この修繕費を計画的に積み立てているかいないかは、マンションの価値を決める基準に入っていないのが現状です。この先、国策で中古市場が成熟してくれば、管理組合の運営状態は大きな市場価値の差となって出てくるでしょう。

失敗しない不動産選び3 「いつ」買うか

――それでは、ずばり家を買うならいつがいいですか?

長嶋:これはどこに行っても必ず聞かれる質問です。前述した上位15%の物件がローンで買えそうなら、史上最低の金利である「今」でしょう。それに、購入する予定があるなら、早く買うほどローンも早く終わります。しかし、本質的な答えは「あなたのタイミング」です。
というのも、ほとんどの場合が「子供の学校選び」や「親との同居」「転勤」など、家を買うタイミングは家族のライフイベントによって決まるものだと思います。今が買い時だからといって即決できる人は、それほどいないのです。不動産市況に振り回されるより、自分と家族が幸せに暮らすためのタイミングを図るのがいいでしょうね。

――2020年以降は不動産が安くなるという話も聞きますが、どう思われますか?

長嶋:私は、不動産市況に関係しないだろうと見ています。それよりも、消費税10%導入のほうが、よほど影響が大きいでしょう。

――消費税増税は大きな動きですが、日常において不動産のトレンドを読む指針はありますか?

長嶋:最適な指針としては「日経平均株価」です。ただし、ダイレクトに連動するのは都心3区(千代田区、港区、中央区)のマンションに限られます。


都心3区の中古マンション成約価格推移(株式会社不動産流通システム提供)

おそらく、該当区のマンションに興味を持つのは景気動向に敏感な人が多いのでしょう。ほかの区や戸建てはそれほど顕著ではありません。より広域なトレンドは、まず城南(港区、品川区、目黒区、大田区)から始まり、「の」の字を書くように城西(新宿区、世田谷区、渋谷区、中野区、杉並区、練馬区)、城北(文京区、豊島区、北区、荒川区、板橋区、足立区)、城東(中央区、台東区、墨田区、江東区、葛飾区、江戸川区)に至ります。この「の」の字は、さらに大きく東京都下、神奈川、埼玉、千葉へと移動していきます。かつては東京から始まる不動産の動きが名古屋、大阪、福岡など、全国へ拡大するまで2年くらいかかっていましたが、今は半年ほどのスピード感です。これがわかっていると、不動産市場の大まかな動きを予測できると思います。
不動産トレンドのポイントがわかっていれば、資産価値を落とさずに長く快適に暮らせる、より良い選択ができるのではないでしょうか。

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