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社会問題の渦の中に“自分”を置き、2,30年後の幸せで豊かな暮らしのために「シェア」という概念を

社会活動家 石山アンジュ

モノが溢れる現代に象徴的な消費行動の変化、景気の低迷による生活防衛意識、コロナ禍における人との繋がりの希薄化と、余剰時間の増加……さまざまな要因を背景として、他者と有形・無形の資産を「シェア(共有)」することへの注目と期待が高まりつつある。

幼い頃からそんなシェアの考え方に親しんで育ち、現在はその社会浸透に向けて躍動する社会活動家の石山アンジュ氏に、幅広い活動の根底にある思いについて伺った。

自身の目標や理想のキャリアは描かない。変わらずコアにあり続けるのは “こんな世界であってほしい” という想い

社会活動家の石山氏は、社団法人 Public Meets Innovation(PMI)やシェアリングエコノミー協会、法人組織 Ciftにおいて代表理事を務める他、コメンテーターとしての活動やさまざまな公職においても活躍している。こうした多岐にわたる活動に通底しているのが、昨今注目が高まりつつある「シェア(共有)」の概念。石山氏の人生とこの考え方とがリンクし始めた最初のきっかけは、幼少期にまで遡るという。

「実家は今で言うシェアハウスのような、さまざまな人が出入りする家でした。そんな環境で、“自分は両親だけでなく、血の繋がらないお兄さん・お姉さんたちにも育てられた”という感覚を当時から持っていたように思います」

その後もいくつかの “違和感” から、「シェア」の概念を意識してきたのだとか。

東日本大震災の後あらゆるモノがスーパーからなくなっていく光景を目の当たりにした一方で、父がさまざまな友だちからモノをもらって助けられていたことが印象的でした。この対比に、“モノの供給とその消費が生きていくために不可欠だ”という経済モデルへの違和感を覚えたのです。

そして企業に就職して働く中で、転勤やリストラといった働く人の意思とは無関係の、不可抗力的なものごとの存在を考えさせられ、そこから資本家と労働者という構造に対する違和感を覚えました。どうすれば個人が組織とフラットな立場で働けるようになるのか、と考えていたタイミングで、ある書籍を読んで“シェア”の概念に出会い、幼少期に自分の置かれていた環境やその当時の感覚、そしてこれまで感じてきた違和感が、すべて一つの線として繋がった気がしました

「シェア」の考え方に魅せられた石山氏は、インターネットを介してモノやスペース、スキルといったあらゆるものの売買・貸し借りなどを行う「シェアリングエコノミー」の普及を目指し、シェアリングエコノミー協会の設立に参画。さらに同協会の活動を進める中で気がついた “民間企業・行政間の繋がりや相互理解の希薄さ” という課題を解決するべく、ミレニアル世代のシンクタンクPublicMeetsInnovationを設立。新たに事業を展開するなど、徐々にキャリアの幅を広げてきたのだという。

「若い世代の社会活動をしている人やスタートアップの方々が政府に働きかけやすい環境をつくりたい。誰でもルールは作れるし変えられると知ってほしい。そんな思いで、官僚、政治家などとスタートアップやベンチャーのイノベーターをつなぐ場であるPMIとしての活動を新たに始めました。

もともと“何歳で何になりたい”という自身のキャリアは描いていないんです。ただ昔からあるのは、“こんな世界であってほしい”という想いだけ。そのゴールに向けて進む中で “こんな社会の機能や場、コミュニティってまだないな”  “こういうプレーヤーがいない” と足りないものに直面するたび、新しい団体やコミュニティを立ち上げたり、また新しいライフスタイルを自身で選択したりしてきた感覚ですね。手段の幅は少しずつ広がっているけれど、コアにしているものは変わっていません。これからもきっと同じように進んでいくのだと思っています」

つくりたい世界観を、実生活において自分自身で体現する

自身の活動の一つとして「新たなライフスタイルの選択」を挙げたが、仕事とプライベートの線引きはどう考えているのだろうか。

「仕事とプライベートを分けて考えてはいません。現在は拡張家族をテーマとした共同生活を東京で行いながら、大分県豊後大野市の古民家をもう一つの住まいとして多拠点生活をしています。これは私にとって、“自分がつくりたい世界観を実生活で体現する” ことなんです。

“これが新しい世界の豊かさだ”と信じて語るなら、実践しなければ分からない大変さや細かな課題まで実感として理解していたいですし、何より自分自身がそれを楽しい、豊かだと思えている状態で、嘘のないありのままを伝えたいなと。尊敬するマハトマ・ガンジーの言葉 “あなた自身が、あなたが見たい世界になりなさい”に通ずる部分もありますが、そんな思いで、今のライフスタイルを選択しています

つくりたい世界観の体現として、実践するライフスタイル「拡張家族」とは、血縁や制度によらず “相手を家族だと思ってみる” という意識や価値観を互いに共有して関わり合う共同生活組織だ。立ち上げ当初は40名弱だったコミュニティは今では110名にまで拡大。育った環境やこれまでの経験も、仕事も、コミュニティとの関わり方もさまざまなメンバーたちが、対話を重ねて互いの思いやスキルを共有しながら暮らしているという。

 

石山氏がともに共同生活を送る「拡張家族」

人々が価値観の多様性を受け入れて他者に寄り添うこと、そして分かり合えないものと向き合うことをどうすれば促せるのか?という問いは、シェアリングエコノミー推進などに取り組む中で私が使命感を持って向き合っているテーマです。

拡張家族はこの問いに対するアウトプットの一つとして提案、実践している、“一人ひとりが主役であり、主体性をもって互いに資産を共有し合うことで全体が成り立つ” という新しいコミュニティのあり方なんです。今は実生活を通じて、社会実験をしている段階ですね」

もう一つの拠点である大分の古民家は、大分空港からおよそ2時間半、最寄り駅からは5km離れた自然豊かな山里にある。この辺り一帯の山については14世帯が共同所有権をもって管理しており、草刈りや道路の舗装も、山から水を引いて各古民家に流すことも、全てが “みんなの仕事”になる。まさに共有の資源を共同で管理する「コモンズ」の概念が深く根付いた地域なのだという。

シェアリングエコノミーの推進に取り組み “究極のシェアってなんだろう” と探求を続ける中で、おすそ分けを超えてものを共有する文化が残された地域が日本にもまだあると偶然知って。とても驚いたと同時にもっと勉強してみたいなと感じ、この地域にご縁があって生活を始めました。

定期的な集会の場でものごとを決めていく形での運営において、スムーズに議論が進まない場合も効率がよくないと感じられる場面ももちろん多々ありますが、きっと大事なところはそこではなくて。みんなが参加することに意味があり、共同体として守られているものがあるのだなと。これが完璧なコミュニティの形だと思っている訳ではありませんが、学ぶところは非常に大きいなと感じます

大切なのは、“社会への違和感”と“自分の人生”を分断しないこと

「シェア」の考え方への注目が高まりつつあるものの、その背景にあるのは前向きな明るい話題ばかりではない。「シェア」を基盤とした新たなライフスタイルや経済社会のあり方の提案に奔走する石山氏の目には、この考え方を取り巻く社会の “今” はどのように映っているのだろうか。

「社会の不安定さやそれに起因する犯罪、長期化する戦争など悲しい話題は尽きません。近代以降、人々は既存の経済や社会の仕組みが完璧であるように思ってそれを維持するために一生懸命になってきたけれど、実は人間自身があまり成長していないのではないか、そう感じさせられます。

さらにコロナ禍でより人間関係が希薄になり、容易に人が信じられず、また多様な意見を取り入れたりニュースの出来事に自分ごととして思いを寄せたりしづらい状況になってしまっているのではないかなと。

シェアリングエコノミーの本質は “繋がりと信頼の上に成り立つモデル” だと言えますが、そういったさまざまな人との繋がりを広げていく開かれた世界とは逆の方向に今の社会が向かってしまっている感覚で、悲しさを覚えます」

そうした現状をふまえ、今後に向けた思いを語る。

人の意識がどうすれば変わるのか、というテーマに対してさまざまな機会や手法で社会実験を繰り返しながら……あらゆるものを画一化し個別化するやり方とは異なる形で、より多くの方々が多様性を受け入れながら豊かに暮らせる仕組みや制度、社会常識を柔軟に考えていきたいと思っています

さまざまな違和感や疑問をそのままにせず、一つひとつ問いを立ててアクションを起こしてきた、そしてこれからもそうし続けていくであろう。最後に、その原動力がどこから来るのか聞いた。

今自分のやっていることが、2、30年後の未来、つまり私自身やその子どもの暮らしに直結しているという意識が強いのだと思います。違和感を解決した先にあるものを自分が享受したときに、より幸せになれるだろう、より豊かに生きていけるだろうという思いがモチベーションになっている感覚です。

やはり社会問題を考えるときに、それが自分の人生とリンクしていなければ、いつだって “まあいいや”と歩みを止められてしまいますし、ただ面倒くさいことで終わってしまいかねませんから。まずはその問題の渦の中に自分を置いてみること、社会への違和感と自分自身の人生を分断しないことが大切なのかなと思います。大きな希望を抱きづらい世の中だからこそ、心から “自分のために、やらずにはいられない” と思える状態で社会や仕事との向き合い方を考えていきたいですね

 

取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=永田遥奈/撮影=小野綾子

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