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“受注型”から“創注型”へ。印刷テクノロジーを活かしたTOPPANデジタルが目指すものとは?

TOPPANデジタル株式会社

“TOPPANのこと、印刷会社だと思っていませんか?”という問いかけで始まるCMを目にしたことのある方は多いと思う。紙への印刷の需要が激減する中、凸版印刷は社名から“印刷”の文字を取り、「TOPPAN」に社名を変え、DXの時代に存在感を表す企業へと転換を図っている。そんなTOPPANのデジタル変革を牽引する企業として、昨年発足したTOPPANデジタルにこれからのTOPPANは何を目指していくのかについて伺った。

印刷事業で培った情報のデジタル化で“2025年の崖”に打ち勝つ

印刷会社大手、凸版印刷が昨年10月に持ち株会社体制に移行し、商号を“TOPPANホールディングス”とした。凸版印刷の主要部門を母体とするのがTOPPAN株式会社、そして、TOPPANグループのDX事業推進を牽引するのがTOPPANデジタル株式会社(以下、「TOPPANデジタル」)である。このように印刷会社がデジタル化、DX事業へと大きく舵を切るに至ったのには、どのような経緯があったのだろうか。

みなさんは印刷=アナログといったイメージをお持ちだと思うんですが、実はTOPPANはデジタル化にずいぶん前から取り組んでいます。TOPPANには、情報コミュニケーション、生活・産業、エレクトロニクスの3つの事業領域があって、なかでも情報コミュニケーションは、情報を加工してお伝えしていく事業です。そのひとつがペーパーメディアによるコミュニケーション、つまり印刷なのですが、情報を加工したものをいろいろなメディアに展開するには、当然デジタル化も必要になってきます。その流れで2000年代にはスーパーなどのチラシを電子化する“Shufoo!(シュフー)”というサービスを立ち上げたり、デジタルコンテンツの流通事業も手がけたりしてきました。ですので、印刷とデジタルは決して遠い関係ではないのです

と語るのは、TOPPANデジタルの事業戦略部・部長の服部裕輔氏だ。TOPPANグループの事業シナジー最大化、事業ポートフォリオの変革を目指し、主にDX領域の事業拡大に向けた戦略の策定・実行を担当している。

服部氏が語るように、印刷とデジタルの親和性は決して低くはなく、TOPPANはデジタル化にも積極的に取り組んできたわけだが、2010年代半ば過ぎから印刷事業の売り上げが急速に落ち込むことになる。ちょうど同じ時期に、経産省は日本企業が市場で勝ち抜くためにはDX推進が必須であり、それが実現しないと2025年から多大な経済損失が発生すると危機感を表した。これが“2025年の崖”といわれるものだが、TOPPANもデジタル関係の部門を集約してDXデザイン事業部を創設し、本格的にDXに取り組んでいこうという機運に拍車がかかったのだそう。このDXデザイン事業部こそ、TOPPANデジタルの前身だ

環境の変化を“自分事”とし、まず自ら変革することから始める

「ひとことでデジタルといっても、内容はさまざまです。TOPPANの例で言えば、機械化を図る、紙に印刷していたものをWebでデータとして公開する、などといったデジタル・イノベーションは以前からやっていましたが、これから我々が取り組むのはデジタルを活用して、企業や社会の様々な組織、機能のDXを支援していくということ。これもデジタルです。DXデザイン事業部がやっていたことをさらに発展させ、事業として確立して社会の変革を担っていこうと考えています

服部氏とともに、事業戦略部で企画チームをとりまとめている課長の岡田達裕氏は、このようにTOPPANデジタルが担う役割について語った。

「TOPPANは、印刷を祖業とするため、ものづくりに関する品質管理は得意とするところですが、デジタルサービスの品質管理については発展途上の部分があります。ですから、DX事業を成長させていくには、デジタルの品質管理機能の向上が必要になります。また、従来の仕事は、雑誌や書籍、チラシなどお客様の作りたいものは決まっていて、それをご要望に従ってカスタマイズして納品するという“受注型”でした。しかし、これから手がけるデジタルサービスでは、我々が何もないところから企画してお客様に提供していく。そういう売り方も含め事業そのものを作るという意味でも、TOPPANグループ全体を変革するという任務もあると思っています」(岡田氏)

DX、デジタル化への流れは不可避なこととはいえ、事業の創出、しかも売り方・営業の仕方まで転換するというのは容易なことではない。特にTOPPANのように長い歴史を持つ企業であればなおさら、社員の中には戸惑いや不協和音などが起こりそうなものだが、一枚岩で進められたのだろうか?

「2021年から2022年にかけてのペーパーメディアの需要の落ち込みは本当に大きくて、我々は印刷市場の縮小を目の当たりにしています。とはいえ、ものを包むパッケージは今後もなくならないだろうし、エレクトロニクスも堅調ですから、TOPPANの市場が急激に小さくなったわけではありません。凸版印刷にDXデザイン事業部ができた当初は、“まずは先に組織を作っておいて、走りながら考える”ぐらいの意識だったのは否定できませんが、そこに身を置く我々自身が、環境の変化をみながら、TOPPANのデジタル変革を自分事として捉え、少しずつ変わってきました。新しい事業を作るには、一人ひとりのスキルアップも必要ですし、適した人材を育てたり外から入ってもらったりして、前向きの危機感を持ちつつDXを進めてきたということだと思います」(岡田氏)

TOPPANの変革のコンセプト“Erhoeht-X”が目指すビジネスモデルとは?

岡田氏から“自分事”という言葉が出たが、確かに企業が変わっていくには、環境の変化を自分事として捉え、積極的に自ら変化していこうという気概が一人ひとりになければ、簡単には実現しないだろう。そのために“企業文化の変化が必要だった”と、服部氏は言う。

さきほど岡田が“従来はお客様のご要望に従ってカスタマイズしてものを作っていく”ことが使命だったと言いましたが、今後はそのような“受注型”から、さまざまな課題をデジタルの力で解決するサービスを開発し提供していくことが求められるわけです。さらにお客様の言われた通りにだけではなく、これから問題になるかもしれない未来のことも先んじてキャッチし、対応していかなければなりません。つまりニーズを先取りしてサービスの質を上げていく“創注型”への転換です。そうなると従来のやり方では難しいことも多い。TOPPANの企業文化そのものも変革していかなければ、お客様のニーズに合った価値を提供できないでしょう。自ら変革をしつつ、お客様のデジタル変革を支援していく、そのような役割が我々に求められているのだと思います」(服部氏)

“受注型”から“創注型”へ、TOPPANグループが自ら変革し、社会のデジタル変革を推進していく上でコンセプトとしているのが、Erhoeht-X(エルヘートクロス)だ。グループ創業の原点となっている当時の最先端印刷技術“エルヘート凸版法”からきた造語で、今まで培ってきた印刷テクノロジーのさらなる進化とともに、先進のデジタルテクノロジーと高度なオペレーションノウハウを掛け合わせて(クロスして)データ活用を基軸としたハイブリッドなDX事業を展開するという意味が込められている。

「エルヘートの語源はドイツ語のErhöhen(エルホーヘン)、高めるという意味の言葉にあって、エルヘートクロスは昔の技術を大事にしつつ新しく高めていくという内容です。目指すビジネスモデルとしては、まずデジタル化があります。自社でプラットフォームやツールを開発して、顧客企業のDXの支援をする。TOPPANは工場でものづくりを長年してきた会社ですので工場の立ち上げ・効率化も得意です。そのノウハウを活かして現場のオペレーションや運用支援もBPOとして請け負うことができます。その過程で顧客企業のデータを整備・分析していくことによって、こうすればより効率化できるとか、新しい価値を見いだすことも可能になる。これがコンサルティングです。そういったサイクルを作り出すことをエルヘートクロスは狙っています」(岡田氏)

 

Erhoeht-Xが目指すビジネスモデル

従来の強みを活かし、連続・非連続を組み合わせて新しいビジネスにつなぐ

エルヘートクロスの目指すビジネスモデル、サイクルを見ると、岡田氏が語るようにTOPPANが得意とするところはともかく、データ分析やコンサルティングに関しては新しい領域の挑戦という側面がある。顧客企業の変革のためのDX支援には、まずTOPPANの変革が必要ということだろうか。

BPOによりデータの蓄積はどんどんできてきてはいますが、それをどう分析して価値化していくか、コンサルティングで価値を高めていくかというところは人材も含めて今後の課題です。社内の人材の育成はもちろんですが、他社とのアライアンスも積極的に行っていくつもりです。TOPPANは元々、旧大蔵省印刷局の技術者がベンチャーで発足した会社で、単に受託型のビジネスだけではなく、時代に応じてパッケージの印刷に進出したり、印刷テクノロジーをいろいろな事業に展開したり、特定の事業に固執することはありませんでした。そんな環境への適応力こそTOPPANの強みですから、それを活かして事業を広げていきたいですね」(服部氏)

強みを活かしながら、変えるべき部分は変えていく。凸版印刷に入社以来エレクトロニクス部門に所属して、変革を担ったこともある岡田氏は、TOPPANは良い意味で変革慣れしてきているのではないかと語る。

デジタル化、DXはもう待ったなしの状況ですから、こんなことを言ったり提案したりしたら、どう思われるだろうか?などとは思わなくなりましたね。変革に慣れてきて、会社としてもそれを当然とする空気もありますので。事業企画チームで私が今手がけているのは、例えば、物流のDXです。人材不足が課題となっている分野ですから効率化は必須なんですが、物流とひとくちに言っても対象は多岐にわたります。深い業界知識とノウハウがなければコンサルティングをできないのはもちろんのこと、お客様の信頼も得られません。この物流の分野では、2021年にアイオイ・システムというデジタル・ピッキングの会社をグループに加えて、たとえば倉庫の中にあるものの仕分けを効率化することに取り組んでいます。“仕分け”というのは、すべて自動化すればいいというものはなくて、ある程度は人の手で行うことで大きなトラブルを防げるという側面があるんです。そういった人手の使い方に加えて、デジタル・ピッキングのシステムは、印刷テクノロジーでつくられるICタグと組み合わせて使用できるので、実はTOPPANと親和性が高い事業です。新しいビジネスはそういった従来の仕事の延長線上のものだけではなく、非連続の分野にも広げていき、連続・非連続を組み合わせて取り組んでいきたいですね」(岡田氏)

 

TOPPANの物流DXソリューション

(まとめ)

さまざまな産業で人手不足が問題として取り上げられるようになって久しい。この課題解決には“効率化”が不可欠だが、そこに印刷のノウハウが強みとして活かされるとは? お二人の話を伺うまでは正直ピンとこなかったのだが、倉庫のものの仕分け、ピッキングの説明ですっと腑に落ちた。環境の変化に飲まれないようにするには強みを見つけ、変革を恐れないこと。それに尽きるのだろう。

 

取材・文:定家励子(株式会社imago)

写真:小黒冴夏

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