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大事なのは、デザインしたものの先を見据え 人がそれによってどう変わるかまで考えて提案すること

株式会社イメージソース 代表取締役社長 小池博史

Webを初めとして、さまざまなデジタルテクノロジー、デジタルツールが実現するインタラクティブなコミュニケーション。それをデザインでリードしてきたクリエイティブエージェンシーがイメージソースだ。そのイメージソースの代表を20年近くにわたって務めている小池博史氏にデジタルデザインの現状と未来について語っていただいた。

ツールからサービスまでコミュニケーションをデザインする

新型コロナの感染拡大により、さまざまな経済活動がスピードを落とし、閉塞的な状況に陥っているケースが少なくない中、イメージソースは少人数グループ特化型オンラインイベントのための双方向ライブコミュニケーションツール「ONLINE EVENT SOLUTION by IMG SRC(オンラインイベントソリューション バイ イメージソース)」を開発した。7月のリリースなので、かなり早い対応と言える。

※グループで交流しながらコンテンツを体験することで親近感や安心感を保ちつつ、リアルイベントで得られるような満足度の高い体験ができる「ONLINE EVENT SOLUTION by IMG SRC」

 

「コロナの問題が深刻になってきて、一旦僕たちの仕事もストップしてしまいました。そんな中、今できることは何だろうとみんなで考えた時にいくつかアイデアが出てきて、そのうち3つほどを形にしたんです。「ONLINE EVENT SOLUTION」はそのひとつ。コロナのために、なかなかリアルなイベントが開催できない。とはいえ、企業の販促活動がなくなることはありませんから、まずは自分たちが行いたいことをオンラインに置き換えていこうと。オンラインならではの“できること”をソフトウェアの中に取り込んでいくことによって、できあがりました」

今後どうなるかわからない状況の中での開発ではあったが、ある程度ニーズはあるだろう。とにかく自分たちのスピード感を見せ、後に何か仕事につながればいい……ぐらいの気持ちだったそうだが、各企業が、それぞれの活動を通常の状態に向けて再開していく中、問い合わせも増えているという。とはいえ、インタラクティブデザインといえばイメージソースといわれるようなクリエイティブ集団がこのようなツールを作り出したということは、正直意外だった。

※2017年10月、NTTドコモ代々木ビルをキャンドルに見立てたプロジェクションマッピングのプロジェクト「YOYOGI CANDLE 2020」。

 

「僕たちのやっていることはコミュニケーションデザインなんです。コミュニケーションが必要なところに、ツールがなければツールを開発するし、表現が必要であれば表現します。デザインが対象とするところはものすごく幅が広くて、意匠的なものばかりではなく、ツールやサービスまでデザインしていかなければならない。デザインする必要があると思っています」

震災。そしてコロナを経て目指すものとは

今年9月に立ち上げられたイメージソースの公式noteにはこんなフレーズがある。

「イメージソースは、R&D思考による『ものづくり』を強みとして、様々な課題解決に貢献するというこだわりがあります。人、プロダクト、経済、全てにおいてCREATE(創造)し、CULTIVATE(育成)し、SOCIALIZE(社会実装)していく『ものづくりサイクル』を実現させることで、好循環な環境が生まれるという考えを大切にしています」

個人的には特に「R&D思考による『ものづくり』」というところに、以前とは違う大きな変化というべきか、決意のようなものを感じたのだが、小池氏自身はこれをどうとらえているのだろう。

「僕たちも、世の中とともに変化しているということです。最初はWebも表現力の一環ということで、広告価値や社会的意味というよりは、表現的に面白いこと、エンターテインメント性のある楽しいものをどんどんやっていこうというスタンスでした。でもそれが、2011年の震災でガラッと変わって、すべてが一旦リセットされたんです。イメージソースは、世の中を豊かにするための何か、ものづくり視点でのデジタルソリューションを提供するということに重点を置いて仕事をしていきたいと思いました。そのためには、R&Dとか、自分たちで発信することが必要だと。震災を機に基本的な考え方が大きく変わったんです」

※イメージソースが空間演出のためのプロトタイプとして提案する「KAXEL」。テキストやシンボルといったアニメーションを描画しながら「隠す」というふるまいで、同時に背後の対象物の存在を際立たせ、センサーと連動することで、光と影を操るインタラクティブなメディアとして機能する

 

冒頭で、カンヌ広告祭で数々の受賞歴があることをご紹介したが、実はそれらも震災前までのこと。小池氏は、現在はアワードにとらわれないモノづくりをしようと思っているのだという。震災による変化。そして今、もうひとつの大きな変化の波が訪れているということだろう。

パソコンとの出会いが今の道に進むきっかけに

小池氏は、現在イメージソース社の代表を務めているが、創業者ではない。そして、クリエイターのマネジメント、さまざまなブランドのクリエイティブロデュースなどを手がけるノングリッド社の代表でもある。このノングリッド社は小池氏が2000年に自ら立ち上げた会社だ。それ以前は当然デザインなどの仕事に携わっていたとばかり思っていたのだが、当初は全く違う仕事をしていたのだという。

※製造業従事者数日本一の「ものづくり国・富山」。ノングリッドは、「産業観光」を軸に地域経済の活性化と、この地での豊かな暮らしの実現を目指す観光法人「水と匠」のブランディングを担当。水をイメージさせる曲線による軽やかさと土地を感じさせる重厚感を両立させている

 

「もともとは百貨店に務めていました。バブル最後の入社で、崩壊すると同時に物が売れなくなり、良いものを揃えて置いておけば商売になるというそれまでの状況は一変し、いろいろこっちからお客様に声をかけていかなければいけなくなったんです」

その結果、社員自ら仕事終わりにチラシのポスティングまで担い、心が折れそうになる日々だったのだそうだ。そんな時、百貨店の電気製品売り場で出会ったのがマッキントッシュ。文字ベースのパソコン通信などができるというので、小池氏はのめり込んでいった。

「チラシを配ってもなかなか反応は返ってきません。でも、パソコン通信や、その後に出てきたWebを利用して百貨店のサイトを作ったら、もっといろいろできるんじゃないかと思い会社に提案しました。でも、入社数年の一社員の提案はなかなか受け入れられなかったですね」

その後、百貨店を辞めて専門学校の職員となり、入学者を集める営業などの仕事を手がけながら念願のHPの立ち上げ、入学営業の広告製作なども行うようになり、ますます興味を覚えた小池氏は広告やWeb製作を専門に行おうと独立しノングリッドを立ち上げた。

「僕の中でイメージソースはものづくりの会社。一方ノングリッドはブランドと一緒に伴走するようなブランディングに重きを置いた仕事をしていく会社にしたいと思っています」

※現代人に必要な「バランスのとれた食生活」を、Easy&Fastなアプローチで解決するジュースブランド「Why Juice?」

 

ノングリッドは、自社ブランドも持っている。それがコールドプレスジュースブランド     「Why Juice?(ホワイジュース)」だ。安全で美味しく、健康に良い野菜を使ったコールドプレスジュースブランドの仕事は、他社のブランディングにもよい効果を生んでいるという。コロナ禍のまっただ中にオープンした東京・下北沢のショップも、こんな時期だからこそ多くの人に喜ばれているようだ。

デザインは間違いなく世の中を明るくする

2018年5月、経済産業省と特許庁は「デザイン経営宣言」という報告書を発表した。デザイン的な思考を経営に取り入れていくことで、企業のブランド力やイノベーション力を向上して、国際的な競争力を高めていこうという考え方だ。そんな流れの中、デザインの果たす役割も変わってきているということだろうか。

「デザインの意味に関して、狭義のデザインから広義のデザイン、そして『デザイン経営』へなどと言われるんですが、僕はどれかひとつではなくてすべてだと思っています。表現に工夫を凝らして、きちんとものづくりを行い、生活に根付くものを生み出していく。デザインに求められるのはそういうことじゃないでしょうか」

コロナ禍による自粛生活によって、余った時間をものの整理「断捨離」に費やす人が増えているという。ものを買わなくなっている人も多いのではないだろうか。

「たしかに余計なものを買わなくなる傾向は強くなっていますね。でも、そういう時だからこそ自分の使うもの、身に着けるもの、口から食べるもの、すべてにおいてすぐに飽きられない、長続きするものを作り出すことが大事だと思うんです。どうでもいいものは必要とされなくなる一方で、本質的なものは重視される。そこにアプローチするための方法が、デジタルなのかアナログなのか、あるいはもっと違う方法なのかを考えていくのがデザインの役割かなと思っています」

R&Dやものづくりという単語が、たびたび小池氏の口から発せられるが、イメージソースで実現したいことのひとつに「企業の中に眠っている価値あるものをデジタルで活用する、デザインし直す」というものがあるのだそうだ。

「実際のものができていなかったり、企業内だけにとどめたプロジェクトだったりするので、あまり表には出ていないんですが、ある車メーカーの仕事で“30年後の車を考える”というものがありました。車メーカーの方は、安全性や設計などを中心に考えていきます。でもそこに僕たちが入って、テクノロジーやコミュニケーションという要素を入れていくと面白いことになるねということで、一緒にディスカッションとプロトタイプ制作までやらせてもらいました」

デザインというと表層的なところだけをつくるものと思われがちだが、実はもっと奥にある「居心地」や人間の感じる「気持ち良さ」まで考えることができるということなのだろう。

「デザインは間違いなく世の中を明るくする要素だと思います。でもそのためには、昔のようにデザインした広告をバンバン出せばいいということじゃなくて、デザインしたものの先にあるもの、それによって人がどう行動するかということまで考えて提案できることが大事だと思います」

 

(まとめ)

取材はイメージソース社に伺ったのだが、5月ぐらいから社内はほぼテレワーク。社員の方の姿はほとんど見えなかった。クリエイティブの仕事では、何気ない雑談が大きなヒントとなることも珍しくない。社員間でコミュニケーションがとれないと、仕事に支障はないのだろうか。小池氏は、それが若干心配だと言うものの、いろいろな方法を試してみたいと語る。「今後もとにかくクリエイティブのマインドは消さないようにしていきたい」という言葉が印象的だった。

【取材・文:定家励子(株式会社imago)/写真:吉永和久】

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