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未来を加速させる5G時代の幕開けが私たちに問うもの

野村総合研究所 亀井卓也

2020年春、ついに次世代ネットワーク「5G」が商用サービスを開始した。1Gから4Gの時代はネットワークの拡大とともに、個人ユーザー向けのサービスとして携帯電話がスマートフォンへと大きく進化した。

だが、5Gの大きな特徴は、ビジネスや産業での活用が期待されている点だ。5Gの登場で、私たちの社会はどう変化するのだろうか。

野村総合研究所の亀井卓也氏に、5Gがもたらす未来の姿を伺った。

5G時代に起こる変化とは?

――まずは、5Gの特徴を教えてください。

亀井:代表的なものは「高速・大容量」「超低遅延」「同時多数接続」の3つになります。データ通信が高速・大容量になることで、4Kのような高画質の動画配信が容易になります。そして、超低遅延により、リアルタイムに近い情報通信が可能になるので、ロボットやモビリティの制御やVR(仮想現実)、AR(拡張現実)の精度が上がるでしょう。

さらに、多くの端末を同時に接続できるので、1つの基地局からより多くの端末やセンサーを機能させられます。こうした機能面の向上以外にも、5Gには4Gまでとは異なる大きな特徴があります。それは、商用化によるビジネスモデルの変化と拡大です。

――1980年代に1Gが登場してから、1990年に2G、2000年に3G、2010年に4Gと、携帯電話ネットワークはこれまで、約10年単位で進化してきています。

 

亀井:これまでは一貫して、通信サービス市場を牽引するのは消費者のニーズでした。しかし、5Gの機能は、もはや消費者が求めるレベルを超えています。例えば、同時多数接続で一気に100倍の端末に接続できたとして、利用者がいきなり100倍になるわけではありませんよね。この機能が想定しているのは、個人の端末ではなくセンサーなのです。

超低遅延にしても、動画視聴で人間が感知できる程度の遅れに対応するなら、これほどの低遅延性は必要ありません。超低遅延の機能は、工場や建設現場のロボット遠隔操作、あるいは自動車の運転支援などに活かされるものです。つまり、5Gの機能は従来と比べて産業向けであり、それを通して消費者の生活が変わるのだと考えられます。

――消費者が活用できるレベルを超え、ビジネスへの拡大が期待されているわけですね。

世界の5G市場で、すでに商用化されているアメリカと韓国の背景

 

――アメリカと韓国ではすでに5Gが商用化されています。どのような背景があるのでしょうか。

亀井:アメリカの場合は日本とは異なり、5Gの商用化は地方から始まっています。国土が広いアメリカでは、郊外にはまだ光回線が届かない家が多くある。そこで、宅内のWi-Fiルーターを5Gでつないでいます。

――地方から都市部へという流れで普及しているんですね。では、韓国は?

亀井:韓国は5Gの契約者数が世界一です(2020年1月現在)。2019年4月にサービスを開始して、8月にはNo.1シェアのSKテレコムの契約者数が100万人を超えていました。世界的に見てもデジタル先進国で、月に数十ギガバイトを使うヘビーユーザーも多く、大容量通信のニーズも高いのです。5Gスマホの購入補助もあり、国民にとっては「今までと同じ使い方で得をする」状況が普及を後押ししました。

――5Gはビジネス向きという話でしたが、アメリカも韓国も、まず消費者から拡大したんですね。

亀井:そうですね。もちろん、ビジネスでの活用も始まりますが、最初は4Gまでと同じビジネスモデルで展開できる、消費者向けのサービスから広がるのはどの国でも同じです。その先に、産業用途での利活用が進むでしょう。

ただしそれも、ウェアラブル端末などが導入されて、高速・大容量の環境を個人が求めるようになれば、再び消費者による利活用が通信需要を牽引することになるでしょう。通信事業者にとっても、消費者向けのビジネスモデルはなじみがあり、戦略・戦術も描きやすいですから。

働き方が変わって「ギグワーカー」が増える?

――手元の端末でリアルタイムのスポーツ観戦ができる、高画質で患者を診断する遠隔医療が進むなど、5Gの登場で私たちの社会にはさまざまなメリットがあるようですが、具体的に、企業と個人にはどのような影響があるのでしょう。

亀井:働き方が変わるでしょうね。現在、家庭内におけるVRのデバイスはほぼゲーム専用ですが、これがコミュニケーションデバイスとして普通に使われるようになったら、テレワークはいっそう進みます。画面の向こうの相手が、まるでそこに実在するようなリアルな精度で、少しのずれもなく話ができるのですから。今日のようなインタビューも、わざわざ来ていただく必要はなくなります。

――画面を通して仕事が完結するなら、外出する必要もなくなるのでしょうか。

亀井:そうはいっても、家ではなかなか仕事に集中できないものなので、シェアオフィスなど、外に出る機会は残るでしょう。と同時に、実際に家から外に出て、人が集まることの意義は今まで以上に重要になってくると思います。

 

――シェアオフィスで仕事をして、会社に通勤する必要もない。すると企業が、オフィスを構えることの意義や、さらに言えば企業そのものの意義が揺らぎそうです。

亀井:今後新しい働き方として、時間やエリア、期間を自分で選ぶ「ギグワーカー」も、もっと増えていくのではないかと考えます。

ひとつの企業でキャリアを積むだけでなく、単発でさまざまなプロジェクトに参加し、そのたびにいっしょに働くチームも変わるような、企業の枠を越えた働き方ですね。5Gが普及した社会では、世界中のどこでも簡単にアクセスでき、どんな人ともチームを組める。ですから、ライバルも同じ企業の同期などではなく、例えばインド工科大学出のエリートかもしれません。特定の技能を持つ人が、コワークしやすい環境が整っていくでしょう。

そういう流れの中で、企業は常に魅力的なビジョンを提示し続けることが重要です。

――リアルな空間、リアルな時間の価値が、改めて問われますね。

亀井:私は2020年からの10年間は、デジタルサービスがリアルに侵食していく時代だと思っています。すでに、フェイスブックで人とつながったり、電子化されたデータを検索したり、オンラインショップでの試着まで可能になっていますが、こうした侵食はますます進んでいくはずです。

――それを見越したスタートアップ事業なども生まれているのでしょうね。

亀井:映像や画像を、価値に転換する事業が増えていますね。例えば、医療分野の画像処理などは、バックエンドの需要に応えるもので、注目される領域です。欧州ではVRを使い、認知症の患者に、自分が最も輝いていた古い時代を体感してもらう実験が行われています。これが患者に良い影響を与えるようで、現在はエビデンスを蓄積している途中ですが、「デジタルメディスン」ではないかといわれています。これは、リアルとデジタルの融合の好例といえるでしょう。

――ゲームに使うだけなら一家に1台というわけにもいかないでしょうが、仕事をしたり医療に使われたりするのなら、VRデバイスは普及しそうです。

亀井:リアルとデジタルの融合という点からすると、VRよりもARのほうが有効ですね。VRあるいはARのデバイスが最終的にどのような形で家庭に入ってくるのかはまだわかりませんが、5Gの登場で、より身近になるのは間違いないと思います。

危惧されるのは、企業に個人のプライバシーが把握される事態

――韓国では、5G携帯の普及を政府が後押ししたそうですが、日本はどうなのでしょうか。

亀井:日本でも5G導入の促進に向けて動いていますよ。政府は、5Gの基地局などを前倒しで整備する通信事業社に対し、税優遇する方針を固めています。建物や土地の管理者が5G免許を取得し、Wi-Fiのように自前の通信網を構築する「ローカル5G」の整備も減税の対象です。

――5Gが普及するメリットが大きいことはわかりましたが、リスクとしてはどのようなことが考えられますか。

亀井:5Gの導入によって直接生まれるリスクではありませんが、プライバシーに関するリスクをユーザーは意識する必要があると思います。

――個人情報、ということですね。

亀井:個人情報は、個人を特定できる情報のことです。個人情報に関しては、すでに保護する法律があります。プライバシーとは私事や私生活を含め、自分の情報を他人に干渉されたり、侵害されたりすることがないという権利で、民主主義の根幹を成すものです。現代社会では個人情報を含め、個人に紐づくパーソナルデータを企業が収集しています。

例えば、「5%ポイント還元」というようなキャンペーンに惹かれてキャッシュレスサービスを利用することもあるでしょう。その際、購買情報をはじめとする自分の趣味嗜好、ライフスタイルといったパーソナルデータを事業者に提供していることになるわけですが、どこまで利用者が自覚しているかという問題があります。判断するのは自分自身なのですが、ITリテラシーが現実に追いついていないという感じがします。

どの企業をどこまで信頼し、情報を提供するか。それは、ユーザーが自分で見極めなくてはなりません。

――自分の情報をコントロールするのは、自分の責任でもあるんですね。

亀井:パーソナルデータの扱いに関しては世界的にも規制のトレンドがあり、EUが定めたGDPR(EU一般データ保護規則)が代表的です。やがて一人ひとりの意識が変われば、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)をはじめとしたITプレイヤーと消費者の関係も変わるかも知れませんし、企業としても個人データの情報漏洩などがあれば、あっという間に信頼が地に落ちますから、いっそう真摯な姿勢が問われるようになるでしょう。

5Gが加速させる未来──強烈な個性が世界を変える

――亀井さんご自身は、5Gが招く未来をポジティブに捉えていますか?

亀井:テクノロジーに携わる人間は、未来には総じて楽観的なんですよ(笑)。5Gを主語にしてはいけない、というオピニオンもありますが、私も同感です。5Gの登場は、エッジな人たちが考えている未来を加速させるものに過ぎません。重要なのは、5Gを活用した未来を私たちがどう描いていくか、ということなのです。

 

AIが進化することで監視社会を危惧する声もありますが、人口が減っていく日本の地方にとって、AIが可能にする省人化にはメリットがあるなど、テクノロジーには常に光と影の側面があるわけです。リスクをコントロールして、メリットを追求する方法を模索するべきと私は考えます。

――特殊技能を持った個人がコワークしやすくなるような、個人の力で生きていく社会では、特殊技能のない人はどうすればいいのでしょう。

亀井:私は、特殊技能の定義がこれまでと変わっていくだろうと思います。例えばですが、コーラを誰よりも早く飲めるとか、100人近くいるアニメの登場人物を全員見分けられるとか、既存の価値観では測れない技能が武器になりうる社会になる。

きれい事かもしれませんが、そうなると、特殊技能の裾野が広がるでしょう。「誰もが簡単に写真を撮れる時代になったけれど、やはりあの有名カメラマンの撮る女性には独特の美しさがある」というような、容易にまねできない、再現性がない技能は強い。逆に、型にはまった資格取得に励んでキャリアアップを図ろうとする人のほうが危険です。

――同じ資格を持つ人とは差し替えが利きますからね。ニッチな能力こそが強みになる。

亀井:タガログ語が得意で、かつフィリピンのフルーツに詳しいとか、特技が2つ、3つあれば掛け算的に有利になりますよね。

いよいよ日本でも5G時代の幕があけましたが、まだ誰も見たことがないサービスが生まれることに期待したいですね。強烈な個性が、未来の世界を変えていくことになるでしょう。

 

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