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サブスクリプションは「顧客視点」へのビジネスモデル革命

Zuora Japan 社長 桑野順一郎

「サブスクリプション」が、近年注目を集めている。消費者がモノを購入するのではなく、利用したサービスに対して継続的に料金を支払うビジネスモデルだ。国内メーカーも、サブスクリプションビジネスへの転換を進めているが、ともすれば単なる「分割払い」「月額課金」で終わってしまうこともあるようだ。

企業の「サブスク」化を支援するZuora Japanの桑野順一郎さんに、サブスクが提供する本当の価値とは何なのか、そしてサブスク化に伴う企業の将来像について尋ねた。

サブスクリプションの強みは「顧客視点」

――サブスクリプション(以下、サブスク)とは、どのようなビジネスモデルなのでしょう。そして、なぜ今、注目を集めているのでしょうか。

桑野:サブスクとは、消費者にサービスを提供することで、継続的に料金を支払ってもらうビジネスモデルです。NetflixやAmazonプライム、Apple Music等、コンテンツの配信サービスがわかりやすいが、ジュエリーや衣料品のレンタル、クリーニングサービス等も普及し始めました。

背景には「所有」から「利用」へ、「モノ」から「コト」へという、消費者ニーズの変化があります。少子化で市場拡大が頭打ちになる中、企業が物を売って成長し続けることに限界も見えてきました。

――従来の「物を売る」ビジネスとの違いを教えてください。

桑野:製品販売型のビジネスは、物を売ることで成長していき、顧客ニーズを「関東在住の30代男性」等とカテゴライズして分析しています。

しかし実際には、同じカテゴリーに属する人であっても、興味関心の分野や利用するサービスは一人ひとり違います。サブスクは顧客個人の変わり続けるニーズに合わせたサービスや機能を提供します。それによって1日でも長く、1円でも多くユーザーに利用料を払ってもらうのです。

徹底した「顧客視点」こそがサブスクの特徴であり、製品販売型との大きな違いです。デジタル化によって個々の顧客とつながれるようになったからこそ、こうしたビジネスが可能になりました。

Appleやトヨタもサブスク化、製品販売では生き残れない

――サブスク化を進める企業には、製品販売型だけでは生き残れないという危機感があるのでしょうか。

桑野:象徴的なのはAppleです。昨年iPhone販売台数の公表を取りやめました。「iPhoneが売れなくなったからでは?」という人もいますが大きな誤解で、同社にとって端末の販売台数は、経営上の重要な指標ではなくなったのです。

2019年3月の製品発表会で紹介されたのは、ゲームやテレビ配信等のサービスで、ハードはありませんでした。さらに近い将来、iPhone端末自体も定額レンタル制、つまりサブスク化されるのではないかとの予測もあります。同社にとって大事なのは端末の売上ではなく、コンテンツがどれだけユーザーを集められるか、そしてユーザーがサービスにいくらお金を払ってくれるかなのです。

――日本でも、メーカーのサブスク化は進み始めたのでしょうか。

桑野:日本ではトヨタ自動車が「まだクルマ買ってるんですか?」という挑戦的なCMとともに、毎月定額で新車を利用できるサービスを始めました。これは、単純に自動車の販売台数を伸ばすだけでなく、サービスによる売上拡大を視野に入れているからでしょう、

また、複合機メーカーも、コモディティ化、ペーパーレス化に伴う市場規模の縮小を見越して、ビジネスを変えようとしています。ある企業は、複合機に紙のデータをデジタル化して保存する等のクラウドサービスを搭載し、定額で利用料を支払ってもらう仕組みを設けました。

卓球用品メーカーの新たな価値とは?

――サブスクビジネスへ移行する際、大事なことは何でしょうか?

桑野:自社が社会に提供する、真の価値を見極めることです。

例えば、米国のある卓球用品メーカーは、徹底的に卓球用品の価値を追求した結果、真の価値は「コミュニケーション」だという結論に達しました。そして、卓球台のレンタルと対戦相手のマッチングアプリを「コミュニケーションツール」として、企業の人事部に売り込んだのです。

多くの企業が、コミュニケーション不全や職場の閉塞感といった悩みを抱えています。このメーカーはそこに着目し、人的交流の活性化に貢献することで、新たな市場を作り出しました。

反面、一部のメーカーは製品販売の延長で料金だけを月額払いにしています。例えば、高額な家電の代金を、毎月定額で何年かかけて払ってもらうのは、単なる分割払いであり、ユーザーのニーズに合わせた価値を提供しているとはいえません。

――課金の方法を変えるだけでは、サブスクを活用しているとはいえないのですね。

桑野:もうひとつ注意すべきことがあります。メーカーは常に100点満点の製品を発売しようとしますが、顧客の声なしに、満点を達成することなど、本来はできないのです。これからは、顧客のニーズに合わせて更新し続ける「永遠のベータ版」を作ることが求められます。

これは、創業時のメーカーの姿と重なるのではないでしょうか。どんな会社も最初は、作った製品が売れず、客に理由を聞いて改良を重ねたはずです。しかし、メーカーの多くは販路拡大の過程でチャネルを開拓し、それにより顧客との接点を失ってしまいました。市場が縮小する中、顧客のフィードバックを製品に反映する、つまりメーカーの原点に立ち返る姿勢が求められるようになったのかもしれません。

Netflix対ディズニー、勝負を決めるポイントは?

――サブスクの世界も競争が激化しています。

桑野:そのとおりです。今、注目されているNetflixは、新規顧客の獲得と解約防止にはコンテンツの充実が不可欠だとして、2018年のコンテンツ制作費は1兆円を上回ったといわれています。また、米ウォルト・ディズニーが今年11月、独自の動画配信サービス「Disney+(ディズニープラス)」を開始。登録者は初日だけで1,000万人を超えたと伝えられました。コンテンツを提供してもらうパートナーだったディズニーが競争相手に躍り出たことは、Netflixにとって大きな脅威でしょう。さらに、先程述べたように、Amazon、Appleも競合しています。

ディズニーのビジネスに関しては、これまで映画製作では配給会社が、グッズ販売には小売店が介在しました。Disney+は、ディズニー社が顧客と直接つながり、本格的にサブスクビジネスに乗り出すツールでもあります。

――ビジネスの勝敗を分けるのは何でしょうか。

桑野:どれだけきめ細かく顧客のニーズを把握し、それに沿ったサービスを提供できるかにかかっています。例えば、ジュエリーレンタルや動画配信のヘビーユーザーだった人でも、仕事が忙しくなる等の事情で、利用頻度が減る時期があるかもしれません。企業はそれを把握したら、サービスの一時休止や、低料金プランへの転換を提示する必要があります。

事態を放置して解約されるより、顧客を引き止め、利用が増えたら再度アップグレードしてもらうほうが有益なのです。サブスクが単なる「定額課金」にとどまらない理由もここにあります。

カーシェアを「個室」使い!?

――サブスク化が進む中で、企業や社会がどのように変化すると思いますか?

桑野:今後、政策的支援もあってサブスク系のベンチャーには活気があり、日本にはなかったさまざまなサービスが始まると期待しています。

また、企業の可能性について、おもしろい話があります。カーシェアリングサービス利用者には、ほとんど車を走らせない人がいるというのです。調べてみると利用者は、終電に乗り遅れたとき車内に泊まる、動画を見る、カラオケを練習する等、「個室」として車を使っていました。

――車を個室として!考えもしない使い方ですね。

桑野:企業側はこうした使い方を把握することで、新たな料金プランを設けたり、寝袋やマイク、大型モニターを設置したりして、顧客を呼び込めますよね。サブスク化による企業の姿は、こうした隠れたニーズを掘り起こした先にあると思います。

家庭の必需品だと思われている冷蔵庫にしても、本当は製品そのものではなく、食品が冷えることが必要なのです。私たちZuora Japanは、世界のあらゆるものがサービスに変わると考えています。照明や炊飯器等、何もかも「サブスク」化する未来が、やがてやって来るかもしれませんよ。

(構成・文 有馬知子)

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