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人生100年時代、どう生きる!? 新しい社会人基礎力を考える

経済産業省 伊藤禎則参事官×元・マイナビ編集長 吉本隆男

経済産業省 伊藤禎則参事官×マイナビ編集長 吉本隆男

「人生100年時代」がやって来る。英国人のリンダ・グラットン教授(※1)によれば、2007年に日本で生まれた子供が107歳まで生きる確率は、50%もあるそうだ。100年生きることを前提にすれば当然、働き方も変わってくる。
新たなステージに突入する社会で、人はどう生きるべきか。マイナビ編集長・吉本隆男が「人生100年時代の社会人基礎力」を発信する経済産業省の伊藤禎則参事官に聞いた。

※1 人材論、組織論で著名な英国ロンドン・ビジネススクール教授。日本の「人生100年時代構想会議」有識者議員の一人。著書「LIFE SHIFT(ライフ・シフト)」では、人生100年時代の人生設計について論じている。

人生100年時代の新しい「社会人基礎力」――ポイントは「学び」

吉本:2006年に経済産業省が提唱した「社会人基礎力」は、「現代社会で求められる力とは何か?」という問いに対し、「考え抜く力」「前に踏み出す力」「チームで働く力」という3つの能力とそれぞれに紐付く12の能力要素で答えるものでした。10年以上が経って、この社会人基礎力を新たに見直した背景をお聞かせください。

3つの能力/12の能力要素

3つの能力/12の能力要素引用:経済産業省

伊藤:昨今、働き方改革というと、労働時間ばかりが話題になりますが、これはもっと根本的な、国の未来を左右する問題だと思っています。これから訪れる人生100年時代では、人口減少や高齢化、AI(人工知能)で加速する「第4次産業革命」(※2)など、働き方だけでなく、生き方の価値観そのものが変わるでしょう。

吉本:確かに、人生100年とすると、80歳くらいまで普通に働くことになりそうですね。

伊藤:そうなのです。我々の人生はこれまで、「学校で学ぶ」「会社で働く」「退職して悠々自適」という大きく3つに区切られていました。今後は、それらが一体化し、働きながら学び続け、働きながら余暇を楽しむライフスタイルになっていきます。では、何を学ぶのか?これからの時代は専門性の高さが求められるようになり、職業ごとにスキルを磨き続ける必要が出てくるでしょう。そして、その土台となるのが、我々が今回発信する「人生100年時代の社会人基礎力」です。

吉本:従来の社会人基礎力と、かなり変わってくるのですか?

伊藤:いえ、ベースは同じです。2006年に発表した社会人基礎力は、大学生がいかに社会に適応していくかを念頭に置き、座学にとどまらない基礎力の重要性を提唱するものでした。新しい社会人基礎力は、人生100年時代に即し、対象を各世代に広げて「何を学ぶか」「どのように学ぶか」「どう活躍するか」という、新たな3つの視点を付け加えたものになります。

「人生100年時代の社会人基礎力」の見直しのイメージ

引用:経済産業省

※2 AI、ビッグデータなどを活用した技術革新。生産やサービスの在り方が大きく変化し、人間が行っていた労働の一部がAIやロボットにより補助・代替される社会が予想されている。

大学がリカレント教育の要となる一方、企業の意識改革が迫られる

吉本:文部科学省が主体となり、2020年を目途に大々的な教育改革が実施されますが、新しい社会人基礎力との連動はあるのでしょうか?

伊藤:2020年度から実施される小学校の新学習指導要領には、「思考力」や「学び続ける力」が盛り込まれ、新しい社会人基礎力と足並みをそろえています。また、学び続けることがポイントとなる人生100年時代、大学が果たす役割は今以上に重要になると考えます。18歳から22歳の若者だけでなく、社会人向けに学びの場を提供するリカレント教育(※3)が中心となるでしょう。

吉本:メディアアーティストの落合陽一さん(※4)の著書などを読むと、今は生き方が変わる過渡期なのだと感じます。だからこそ、新しい社会人基礎力の重要性が増しているのですね。

伊藤:おっしゃるとおりです。AIに仕事を奪われると危惧する声がありますが、一方で、新しく生まれる仕事もあるのです。人間らしい、人間にしかできないことをしていくためには、課題を設定して学び続けることが鍵となります。

吉本:社会人基礎力の普及について、大学教育の現場では対応が進んでいるようですが、社会人への啓蒙に関してはどうでしょう。

伊藤:自分の成長を実感できるかどうかは、体験の総量、つまり実践経験が関係してきます。大学での知識に加え、実践の場が必要なのです。社会人の有効な学びとして我々が考えているのは、副業や大人のインターンシップなど、自分の居場所である企業から外に出た活動です。

吉本:企業側と働く人々、双方の意識を変えないといけませんね。

伊藤:大企業に就職してレールに乗ったつもりでも、それが終着駅まで続いているかはわからない時代です。法政大学の諏訪康雄名誉教授が「キャリア権」という概念を提唱していらっしゃいますが、人には自分のキャリアを自分の財産として豊かにしていく権利があります。社会人基礎力をきっかけに、この概念を広めていきたいですね。

吉本:個人より企業の意識を変えるほうが難しそうです。

伊藤:そこなのです。「転職が当たり前になって人材が流動化すると人材投資ができない」という企業がありますが、人手不足は今後も広範囲かつ長期にわたって続く構造的な問題です。その中で、人材投資を躊躇することは、企業にとって命取りになります。人生100年時代には、転職や副業、あるいは複業(複数の仕事)が当たり前になるのだと企業にも知ってほしいですね。流動化を前提に社員の成長を手厚く支援して、人材投資の回収スピードを早めていく必要があります。

※3 生涯教育構想のひとつで、リカレントとは「循環」の意。従来の「学校→社会」という一方向ではなく、社会人の再入学など、学校教育と社会教育を循環的にシステム化する。

※4 研究者、大学教員、博士、メディアアーティスト、実業家など多くの顔を持つ。著書にコンピューターの能力が人間の脳を超える時代を読み解く「超AI時代の生存戦略」のほか、「これからの世界をつくる仲間たちへ」「日本再興戦略」など。

常に自分を振り返り、足りないものを学ぶ習慣をつける

吉本:日頃から就職活動中の学生と接する機会が多いのですが、就職氷河期のときは、学生の「向上心」も「社会人基礎力に対する興味」も高かった記憶があります。しかし、今は売り手市場ということもあって、そういった問題意識に関していささかモチベーションが下がっている感は否めません。

伊藤:比較的就職しやすいときこそ、「最初の一歩」を大事にしていただきたいと思います。今、ぜひやってほしいのは、リフレクション(振り返り)です。自分が現時点で持っている資質、持っていない資質を見極め、どんな「持ち札」を身に付けるかを考えるのです。そのためにはいろいろな人と交わり、変化をおそれず、新しい知識や技術を吸収してください。この作業は生涯、続いていきます。

吉本:ほかにも大学生に向けて、何かアドバイスはありますか?例えば就職先の選び方など。

伊藤:大学生が志望企業に「安定」を求めるのは自然なことです。しかし、学生の考える安定と現実は、必ずしも一致しない。では、何を基準に企業を選ぶのか、私は、“自分のGPS”として何を持つかによるのではないかと思います。

吉本:伊藤さんの就活時のGPSは何でしたか?

伊藤:自身の就活では、いろいろな企業を見ようと思っていました。ですが、調べていくうちに、仕事の中身って時代とともに変っていくことがわかったのです。例えば、自動車メーカーの技術の中心は自動運転にシフトしていきますし、商社の扱う主力製品だって刻々と変わりますよね。「この仕事をやりたい!」と具体的にイメージしても、それをずっと続けられる保証はない。だったら、「就活を通じてたくさんの人と会って、『一緒に働く人』で決めよう。仕事の中身は変わっても、一緒に働く人は大きく変わらないだろう」と考えました。私のGPSは“人”だったわけです。
また、私としては学生の皆さんにはまず、「どんな課題を解決するために存在する企業なのか」という、創業の精神や経営トップの理念に共感できるかどうかを見極めてほしいと思います。このあたりは、マイナビさんが啓蒙してくださることを期待しています。

吉本:マイナビは今、就職活動を始める大学3年生、大学院1年生ばかりでなく、大学1・2年生などの低学年に対するキャリア教育にも積極的に取り組んでいこうとしています。そのためには、社会との接点をできるだけ豊富に提供することが重要だと考えており、インターンシップの普及にも努力したいと思っております。その具体的な取り組みのひとつが、「学生が選ぶインターンシップアワード」への協賛です。このアワードは、企業のインターンシッププログラムを大学生が評価するというもので、今年初めての開催となります。こういった取り組みをきっかけとして、今日、伺ったお話も参考にさせていただいて、新しい視点から大学のキャリア教育をお手伝いしたいです。

伊藤:日本企業の9割以上は中小企業ですが、学生への発信力が弱いため、いまだに就活では敬遠されているのではないですか?

吉本:確かに、優良企業でも学生に存在を知られていない企業は少なくないようです。これからの職業人は、職場を変えて複数の専門性を身に付けて生きていく可能性があるわけですから、中小企業はもちろんのこと、幅広い企業の人材採用を支援していく意義は、ますます高まりそうです。また、働く人だけでなく、人材を評価する企業側、経営者の意識改革も重要になってきますね。

伊藤:人事評価や報酬制度の改革については、引き続き議論を行っていきます。「何年間・何時間働いたのか」だけが基準の、時代遅れの評価からは脱却しなければいけません。これから「人生100年時代の社会人基礎力」を、アピールしていきましょう。

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