マイナビ

トレンドnavitrend navi

若い人材、さまざまなスキルを持つ人材が参入することで、 “農業”は“農業ビジネス”になる

フリーランス農家 小葉松真里 × マイナビ農業 事業部長 池本博則

私たちの生活の根本を支える一次産業。重要性を誰もが認識していながら、従事者は年々減少し高齢化も問題になっている。一方で、マイナビ農業が運営する農業をやりたい人と農場をつなぐアプリ「農mers(ノウマーズ)」の登録者は約21,000名(2022年1月25日現在)、コロナ禍で農業に興味を持つ人が増えているのも事実。そこで、今回はマイナビの農業活性事業部・事業部長の池本博則が、土地と家を持たないフリーランス農家として全国を飛び回り、繁忙期の農家を助け、その情報の発信を行っている小葉松真里さんに新しい農業との関わり方、農業を盛り上げる方法についてお話をうかがった。

重労働で泥臭い職業。農業は本当は好きではなかった

池本博則(以下、池本):小葉松さんは、現在は、アドレスホッパーとして家も土地も持たずに、全国のいろいろな農家さんのところを1、2ヵ月ぐらい単位で移動されていると聞きました。大変ではないですか?

小葉松真里(以下、小葉松):私はとにかく10代から20代まで引っ越しが多くて、引っ越し費用も馬鹿にならないし、農家さんから農家さんへの移動生活なんだから、家も要らないんじゃないかと思って。それで、帯広の実家に荷物だけ置いて、ホテルやゲストハウス、農家さんの宿泊施設で日々過ごす生活になりました。コロナ禍で移動や宿泊も大変じゃないかと言われることはあるんですが、移動の飛行機や電車もあまり乗客はいませんし、レンタカーを使ったり、畑に出たり、記事を書いたりするのも一人。だからそんなに大変ということはないんです。

池本:そもそも、小葉松さんが農業に関わり始めたのはどういうきっかけがあったんでしょうか? また、自分の土地も持たずに、いろいろな農家さんのところを移動するフリーランス農家という働き方もとてもユニークですね。

小葉松:私が生まれ育ったのは農業の盛んな北海道、十勝の帯広です。祖父は農業をしていましたが、重労働で経済的にも大変だし、堆肥は臭いしで(笑)、農業は高齢者がするものだと、全く興味を持てませんでした。ただ、学校を卒業してから地元に貢献する仕事がしたいなと思って、新聞社や街作りの会社で働き始めた中で、地元の農家さんたちに出会ったんです。みなさん、まだ20代、30代と若く、夢を持ち儲かっていて、カッコよくて、私がそれまでイメージしていた農業とは全く違っていました

その頃私は、仕事としてイベントを企画したり、コワーキングスペースを作ったりして人が集まる街作りに取り組んでいました。でも、そうやって情報発信をするだけでは地域に何も残らないな、時代が変わっても必要とされ続けるものはなんだろうと考えたときに、それは農業などの一次産業なのではないかと思いました。それが一番のきっかけですね。

※和歌山の梅農家で梅収穫のお手伝いをする小葉松さん

池本:確かに帯広はどちらかというと生産性が高い地域なので、外に出た若い人材が帰ってきて親の跡を継ぐケースも多く、農業振興しながら地域振興もできる。若い人たちが活躍して賑やかになっているという点では、他の地域とは違いますよね。

小葉松:そうですね、それで農業に興味が湧いて、最初富良野の感動農場寺坂農園さんというところに行ったんです。プレハブみたいな狭いところに住んで働き始めたものの、力仕事はしたくないし、虫は嫌だなんて思っていたんですが、自分で種を蒔いた作物が育って収穫できたとき、本当に感動しました。それでも虫は嫌だったんですが(笑)、土壌の勉強会に参加して、虫や微生物にはどんな働きがあって、それが私たちの育てる農作物にどんな役割を果たしているかを知ったら、気持ち悪くなくなりました。殺しちゃいけないなと思いましたね。

フリーランスの立場で、人と人とを農業でつなぐ

池本:小葉松さんのような若い人が農業に魅力を感じて、それを担うようになってくれるのは、農家さんにとっては嬉しいことだと思うんですが、あえて1つの場所にとどまらず、いろんな地域を行き来することを選んだんですね。

小葉松:農業は面白いと興味は持ったんですが、それだけではなくて何か自分ならではの農業との関わり方ができないだろうかと考えました。それが何かを見つけようと思って、北海道夕張群栗山町の地域おこし協力隊に入ったんです。そこで知ったのは、農業にはいろいろな課題があるということ。農家さんたちは、その地に根付いて作物を作る一方で、本当は自分たちでも外に作物を売りに行ったりしたいし、いろんなことをやったりしてみたいけれども、その土地を離れることができません。また、人手も通年で欲しいわけではなくて、繁忙期にだけ来て欲しいという要望もあります。私も1年中畑にいたいとは思っていないので、私みたいな人間がいたら、人手が欲しいときの助けになるし、農家さんが何かに挑戦したいと思ったときに企画をして発信したりすることができるんじゃないかと思いました。私のようなフリーランス農家がいたら、お互いにプラスになると思うんです。

池本:日本の農業の場合、家族経営の延長線上にあるという状況がずっと続いてきました。しかし、農業を取り巻く環境が変化して、“農業”が“農業ビジネス”へと変化していく中で、仕事の内容や働き方がこの10年ぐらいでどんどん変わりつつあります。「半農半X」つまり「半分は農業、半分は違う仕事」という働き方のように、自分の得意分野、スキルがあって、何か農業以外の仕事をしている人が農業に入ってきて、従来の農業と化学反応を起こして大きな成果をもたらすということが起きつつあるというのが今の農業界なのではないでしょうか。そういう点でも、小葉松さんのような方が必要なのだと思います。

※京都のイベントスペースでは、北海道の農業について知るスナックイベントを開催

小葉松:農家さんに“加工品を作りたいんだけど、どんなものがいい?”とか、“ホームページはどうやって作ったらいいの?”と聞かれることがあります。私にしてみれば、“え? そんなこと?”と思ってしまいますが、私のような外の人間だからこそできること、出せるアイデアがあるのだろうと思います。それが化学反応ということでしょうね

フリーランスになって約3年になるんですが、慢性的に人が足りないという農家さんに行くときなど、最近では“真里さんが行くなら私も行く”と言って何人か付いてきてくれる人がいます。学生だったり会社員だったりプロフィールはさまざまですが、一緒に農作業をしていると“面白い! また来たい!”と言ってくれることもあるし、農家さんも人手を得ることができて喜んでくれます。農業に興味があっても、ひとりで行ったことのないところに行き、やったことのないことをするのに抵抗があっても、私のように行ったことがある人間と一緒にいけば不安も解消されますから良いんだと思います。帯広に手伝いに行った東京の人が、今度帯広の農家さんが東京でイベントをやるときに手伝ってくれたり、そんなことも起きているんですよ。

さまざまなプロフィールを持つ人材が、従来の農家と化学変化を起こし、世界が変わってゆく

池本:農業に興味がある人はいても、いざ新規就農となると、ハードルが高いですよね。資金も集めなければいけないし、土地をどうするか、家をどうするかといった問題もあります。考えずに入ってしまうと失敗するケースも多い産業であるのは事実です。マイナビ農業のサービスでも、心がけているのは、農業に興味をもった方がまずはちょっと手伝いに行ってみようとか、気軽に入っていただく機会を作ろうということです。農業マッチングアプリ「農mers」もそのために作ったわけですし。だから、小葉松さんの周りの方々のように、農業に気軽に関わってくれる方が増えるのはすごくいいことだと思います。そういった方と農家さんとをつなぐことができるのは、まさに小葉松さんの力、強みですね。

※「農mers」は、メッセージのやりとりを通じて、農業を始める人と農家をつなぐスマホアプリ。利用は無料、やりとりもチャットで簡単に行うことができる

小葉松:そうですね、まさに私はそういう存在になりたいと思っています。人と人をつなぐのは得意かもしれません。農業ってどうしても閉鎖的な面があるじゃないですか。新しい人をなかなか受け入れてくれないようなところもあって、表向きは頑張ってねといい顔をしていても、裏では反対のことを言っていたり。だから私も最初はやっぱり苦労しました。でも、農業はそういうものだと思って無理はせず、若い方とか新規就農で始めた方、二代目でこれから前向きに頑張ろうとしている方のところに行くようにしました。イベントで知り合った農家さんとか、面白そうと思った人に出会ったら、行っていいですか? とこちらから声をかけたり。友達から電話がかかってきて、こんな仕事があるからやってみない? という誘いに乗ってお仕事をいただくこともあります。

池本:小葉松さんはフットワークが軽くていいですね(笑)。おっしゃるとおり、農業は村社会、その地域や団体など、組織の論理で成り立っている社会なので、外から来る方を受け入れない。ご本人たちは決してそうは思っていないんです。若い人に来て欲しいと言いながら、いざ実際に若い人が来ると嫌がるとか。そういう面がどうしてもある。それが今の日本の農業の根源にある一番難しい問題じゃないかと思います。そういうところを小葉松さんのような存在は少しずつ変えていってくれるのではないでしょうか。閉鎖的なコミュニティや文化が、徐々に変化することができたら、未来は明るくなるんじゃないかと思いますが。

小葉松:今、私のような完全なフリーランス農家じゃなくても、たとえば平日は会社員をしていて週末だけ農業をしている人とか、異業種の方が農業に興味を持って入って来るケースも増えています。そういった動きを見ていると、これからすごい化学変化が起きていくことが期待できますね。

池本:ニュージーランドやオーストラリア、アメリカでは、農業が一番尊敬される仕事なんですよ。日本でもスマート農業やアグリテックとか新しい技術を使うことのできる若い人たちが農業に従事することによって、みんなから尊敬されて夢を抱くことができる産業になる可能性は十分にあると思います。それには、“農業”を“農業ビジネス”に変えて行く必要があるんです。実際に田や畑に向かう農家さんだけではなくて、IoTを動かすオペレーターやエンジニア、マーケッター、営業を担う人たちが一緒の生産法人の中にいるようなイメージですね。そういう世界観が近い将来実現するでしょう。マイナビ農業で農業に従事するみなさんの声を受け止め、満を持して昨年10月にスタートした「マイナビ農林水産ジョブアス」も、そこに貢献していけるといいなと思っています。

小葉松:「マイナビ農林水産ジョブアス」は、まだそういうものがなかったんだ……と意外に感じました。マイナビ農業はただ求人を掲載するだけじゃなくて、農家さんを紹介する記事があるところがいいですよね。千葉から和歌山のみかん農家に嫁いだ女性がいて、今度“農家の嫁のぶっちゃけトーク”をイベントでやろうよと言われているんですが(笑)、そういうリアルな農業を紹介する記事もあっていいのかなと思います。

池本:それはいいですね(笑)。是非マイナビ農業で紹介してください。今後とも農業に興味を持つ人が増えるように、楽しい記事を期待しています。

 

(まとめ)

コロナ禍により、私たちはさまざまな問いを突きつけられることになった。それは生き方であったり、食に対する向き合い方であったりさまざまだが、農業をより身近に感じるようになった人は多いのではないだろうか。小葉松氏のしなやかな農業への取り組みを見ていると、あきらかに世界は変わりつつあるのがわかる。これからの活躍に期待したい。

 

【構成・文:定家励子(株式会社imago)】

【写真:吉永和久】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事
新着記事

トレンドnaviトップへ