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採用学研究者 服部泰宏准教授×マイナビ HRリサーチ部 栗田卓也

多様化する日本の採用を科学的に体系化する「採用学」


採用学研究者 服部泰宏准教授×マイナビ HRリサーチ部 栗田卓也

横浜国立大学大学院・服部泰宏准教授が研究する「採用学」は、採用を科学的な手法で分析した新しい学問として注目されている。また、マイナビのHRリサーチ部で、新卒採用に関するデータの調査・分析を行う栗田卓也も採用学に興味を持つ一人だ。共同プロジェクトなどでも交流があるこの2人が、日本の採用についてとことん語った。

「採用学」の登場で、誰でも採用のしくみがわかりやすくなった

栗田:まず「採用学」とは何か、というところから始めましょうか。

服部:そうですね。一言でいえば「採用を科学的に分析するのが採用学」ですが、その目的は、企業と求職者がそれぞれに抱える問題点を洗い出し、どうすれば両者が効率的に出会えるのか、また、両社がよりハッピーになるにはどうすればいいのかを、データに基づいて解明することにあります。

栗田:私は、採用学を確立した先生がいると聞いたとき、ぜひともお会いしなければと思いました。私が最初に研究室を訪ねたのは2014年でしたね。

服部:はい。経済学の観点から採用学に興味を持っている人は僕のほかにもいたのですが、企業の目線からアプローチしたのが目新しかったのでしょう。僕のほうこそ、マイナビさんの調査はずっと見ていました。企業が求める能力値の変遷なども、早くからデータを取っていて。

栗田:調査はいろいろしていたものの、うまく言葉にしてまとめきれてなかったのです。それを先生が、「募集」「選考」「定着」という3つのフェーズで体系的に整理してくださった。採用学の登場で、学生や採用者側にも採用のしくみが理解しやすくなったのではないでしょうか。

共同研究を通してインプットとアウトプットの精度が高まる

栗田:そのときに「何かおもしろい取り組みをいっしょにやりたいですね」とお話をして、2016年に共同研究を実施する機会に恵まれました。

服部:僕が人事担当者向けに設問を用意し、マイナビさんで企業にアンケートを取っていただきました。新しいタイプの採用に挑戦している企業がどのくらいあって、どういう条件下で変化に踏み出すのかを調べたのです。そのときに栗田さんの意見を参考にして、「採用担当者の裁量権」や「経営者のコミットメントの強さ」などを条件要素に加えました。研究者では気付きにくい企業の視点を加えることで、学術的な研究と実際のビジネス現場との齟齬が埋まったと感じています。この結果は「一橋ビジネスレビュー」(※)で発表しましたが、産学連携の意義は大きかったと思います。

栗田:我々としても専門的な分析に関しては課題を感じていましたので、今回の共同研究結果はもちろん、先生を通して欧米の研究や異なる領域の知見にふれることで、アウトプットの精度を上げることができ、助かっています。最新の情報を正確に伝えることが我々の大きな使命ですから、またご協力できれば幸いです。

※一橋大学イノベーション研究センターが編集し、東洋経済新報社が発行する季刊誌。経営学とビジネスの現場を結ぶこと

インターネットと知人の紹介、多様化する採用の現場

栗田:先生は採用現場の現状をどう見ていますか。

服部:日本における採用は多様化しています。「新しい試み=良いもの」という単純な構図ではありませんが、確実に変化は起きています。

栗田:エントリーシートに複数回の面接、求めるのはコミュニケーション力の高い人材と、日本企業の採用は均一化されています。しかし、この採用方法では求める人材を得られないと感じる企業が出てきて、革新的な方法を模索しているのかもしれません。

服部:就職情報サイトが登場した当初は、それを使うこと自体がアドバンテージでした。しかし、採用のインフラとして当たり前になった今、ほかとの差異化を望む企業や求職者には、新たな戦略が必要です。そのひとつが「リファラル採用」ですね。これは、自社の社員に人材を紹介・推薦してもらう採用を指します。既存のインフラを使いつつ、知り合いのつてという、昔からあるアナログな方法を用いているわけです。

栗田:インターネットによる求人情報の提供は2000年頃から一気に普及しましたが、今や情報量が多くなりすぎて処理しきれなくなったり、情報自体の信頼性がやや低くなっている傾向にあります。人はネットの情報よりも知り合いの言葉に重きを置いているのでしょうね。

服部:そうですね。また、企業の採用意欲が高く、求職者の売り手市場であるという現状が、変化の土壌になっていると考えます。しかし、それもやがて落ち着いてくるでしょう。

栗田一定の成功を担保する既存のインフラを活用しつつ、革新的な採用方法に果敢に挑戦する企業は、きっと優秀な人材を確保できるでしょうね。そうして多様な採用モデルを我々が紹介すれば、「うちもやってみよう」と一歩踏み出す企業が増えるかもしれない。これからも当社のリソースを使って新しい知見や情報をどんどん発信していきたいと思います。

より良い情報を企業と学生の双方に届けていく

栗田:今、注目しているものは何かありますか。

服部:最近ちょっとおもしろいと思ったのが、アメリカで出てきた「人材プール」という考え方です。「今は募集していないけれど、優秀な人材とはつながっていたい企業」「今は求職中ではないけれどいざというときはすぐにチャンスが欲しい人」、プラットフォームを作って双方をプールしておく。これは日本の大学生にもあてはまると思いました。今はそういう意識の高い学生が企業に会う手立てが、就活まで待たないとなかなかないです。

栗田:実は、日本でも同じような取り組みをする企業が出始めていますね。中学生、高校生を対象にビジネスコンテストをして、ビジネス感覚を磨いてもらうと同時に自社の製品も知ってもらう。それって直接的ではないもの、つまりは将来の人材プールですよね。

服部:世の中には新しいことに挑戦したい、頑張りたいけれど情報が足りないという企業がたくさんあります。情報を発信していくことが変化への勇気を後押しし、日本企業を強くすることにつながると信じています。

採用のトレンドを見届けたい

栗田:今後は、どのような研究をされる予定ですか。

服部採用のトレンドを見届けたいと考えています。今、新しい挑戦が盛んに行われていますが、3年から5年後もその採用方法は続いているのか。また、その方法で採用した人材はどんな人事評価を得ているのか。新種の採用方法が発生する理由と帰結、どちらも研究していきたいと思っています。

栗田:それはいいですね。以前から、採用という入り口から先の調査が進んでいないと感じていました。例えば、採用試験の面接で、学生の何を見るべきなのか。先生は「コミュニケーション力は入社後でも身に付けられるから面接で見る必要はない」とおっしゃっていますが、定着というフェーズこそが、この「見るべきもの」「見なくていいもの」の確かなエビデンスになるのではないでしょうか。定着率が良いなら、「正しい判断で採用できている」ということになると思います。先生とは、今後もいっしょに研究を進められればと願っています。

服部:こちらからもお願いします。マイナビさんが持っているデータは貴重な知的財産です。人材プールの話がありましたが、データも同様で、今は使わなくても数年後に新しい分析方法が開発されたときに必要になるかもしれません。10年、20年と使われないデータを取っておくことは、余裕のある企業にしかできません。

栗田:学問として体系化していくことで日本の採用は変わります。学生と企業がより良いマッチングを実感できるように、我々も革新的なサービスに挑戦していきます。

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