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人生100年時代のビジネスパーソンはリタイヤ後の「後半戦」にどう備えるべきか

マーケティングコンサルタント 酒井光雄×マイナビ リサーチ&マーケティング部 栗田卓也

「人生100年時代」の到来で、私たちの職業人生は以前よりはるかに長くなった。公的年金の受給開始年齢が上がり、企業の定年延長や再雇用制度も整備されたことで、健康な限り働きたいと考えるシニアも増えている。20代前半に就職し70代まで働けば、就労期間は実に50年に及ぶ計算だ。

マーケティングコンサルタントの酒井光雄氏は、「これからの人生はダブルヘッダー。ビジネスパーソンには『前半戦』と『後半戦』がある」と話す。酒井氏とマイナビの栗田卓也が、長い職業人生とどのように向き合うべきかを話した。

誰もがセカンドキャリアを模索する時代へ

栗田:人生がダブルヘッダーとなった背景には、平均寿命が延びただけではなく、時代の変化もあると思います。酒井さんはどのように考えますか。

酒井:高度成長期以降、若者のほとんどが卒業後、企業に「就社」する時代が続きました。しかし、現在は非正規雇用の割合が高まり、企業の終身雇用も崩れつつあります。企業の平均寿命はかつて30年といわれましたが、今は23.5年と、社員の職業人生の半分以下です。
安定企業の代表格だったはずのメガバンクや証券会社ですら、多くの仕事が人間からAIに置き換わると予測されています。「いい大学」を出て「いい会社」に就職すれば、定年まで安穏と働ける時代は終わり、誰もがセカンドキャリアを考える必要が出てきたのです。



栗田:しかし、大学生の両親世代、特に母親にはまだ安定志向が強く、「大手企業への就職に有利な大学はどこか」といった相談を受けることもしばしばあります。彼女たちは、1990年代に結婚・出産して退職した人が多く、「金融機関か公務員なら安心」といった当時の価値観が更新されていないのです。学生たちもリーマン・ショックなどの暗い時代を知っていることもあって、保守的な考え方にとらわれがちです。
その半面、スキルを身に付けなければ生き残れない、という危機感を持つ学生も増えています。例えば最近、IT企業の人気が上昇しているのは、IT系の仕事に就けば汎用性の高い「ポータブルスキル」が身に付くと、学生が考えているためだと思います。ベンチャー志望の若者も現れ始めています。

若手社員は本が書けるレベルまで仕事を極めよ

酒井:確かに20代の若者には、自らキャリアを築こうという気概のある人が増えており、期待が持てます。大人は気付いていませんが、こうした若者は企業の本質を敏感に見抜いています。
例えば、優秀な人材が集まらない会社の多くは、社員のスーツ姿が今一つ「イケて」いなかったり、オフィスにねずみ色の古い事務机が並んでいたりします。若者はこれらの様子から、職場にクリエイティビティもイノベーションも期待できないことを察知しています。
IT企業の人気もうなずけます。この業界にいる人は、カジュアルでありながらも目上の人に対して失礼ではない服装をしていることが多いです。学生は業界が自由闊達で創造的な要素に加え、そこに働く人たちの服装から社風や企業の自由度、人的な創造性の幅を読み取り、魅力を感じるのではないでしょうか。もちろん、外見だけをきれいに取り繕っても、働いている人の意識が変わらなければ、採用はうまくいきませんが…。

栗田:学生には最近、就職した会社に自分のやりたい仕事がなければ、すぐに退職して次を探す、という意識が見られます。「就社」志向が薄れ、スキルを重視するせいもあるのでしょう。しかし、社会経験がほぼないような若手が、安易に離職することには疑問を感じます。



酒井:同感です。私はよく若手に「本を書けるくらいまで、今の仕事のスキルを極めなさい」とアドバイスします。第一希望の企業に入れても、志望の部署に配属されるとは限りません。しかし、まずはそこで「プロ」を目指すべきです。どんな仕事であれ、他社に応用可能なノウハウを独自に生み出せば、必ず誰かの目にとまり、オファーが来ます。「青い鳥」を探して転職活動をしても、前職をすぐに辞めた若手を採用してくれる企業は多くありません。
社会人になってから将来に不安を抱き、資格を取ろうとする人の話もよく聞きます。悪いことではないですが、教室では教えてもらえないスキルにこそ、最も価値があると思います。

栗田:転職に関しても、目の前の仕事に集中するうちに自分のキャリアが見えてきて、社内に可能性が見出せなければ、結果的に社外へ移るという流れが自然なのかもしれません。

酒井:ただ、いまだにゼネラリストを育成しようとする企業の側にも問題はあります。ある部署で3~4年働き、一人前になったとたんに異動させることの繰り返しでは、プロは育ちません。社外からも評価可能な、スキルと実績を積める人事制度に変えていく必要があるでしょう。

栗田:企業が、人事制度に「ジョブ型雇用」の要素を取り入れ、専門スキルを持った社員を評価したほうがいいということですよね。社員も、営業やリサーチといった、特定分野のスキルを磨けるようになります。

行き詰まったら利他的な行動を積み重ねる人脈開拓を

栗田:団塊ジュニアやバブル世代には、会社の中でポストが見つからず居場所を探している人や、セカンドキャリアで輝くための準備を始めた人がいます。50年に及ぶ就労期間において前半戦といえる30代、40代の人は、どのような準備をすべきでしょうか。

酒井:現状に行き詰まりを感じているなら、異業種の人や起業家、自営業者など、新しい人との繋がりを開拓するのも良い方法です。その際に重要なのが、相手の役に立とうとすること。知り合った人が喜んでくれる情報をメールで送るなど、利他的な行動を積み重ねることで、「力を貸して」と求められる人材になれるのです。

栗田:いかにも「仕事ください」といった調子で近づく人は、自分のことしか考えていないと見透かされてしまいますよね。

酒井:また、大企業には、名刺の力と自分の実力をはき違えて、周りを目下だと見下すタイプの人がいます。私も昔、あるグローバル企業の社員に高圧的に対応されましたが、数年後、別のクライアントの紹介で、偶然その人に再会したのです。彼は、私の顔を見るなり真っ青になっていました。特に前半戦では、人との関係を軽く見てはいけません。
名刺の力に頼っていた人は、後半戦を始めるのも難しくなります。アイデンティティを支えていた肩書や社名を失って、自分自身が消えたように感じ、覇気がなくなる場合が多々あります。

キャリアの棚卸が「後半戦」のカギ

栗田:今、お話のあった後半戦についてお聞かせください。著書の「男の居場所」(マイナビ出版)では、再就職や起業にとどまらず、料理サイトを運営する、子供向け将棋教室を始めるなど、さまざまな提案をされています。自分のペースで長く続けられるセカンドキャリアを、どのように見つければいいでしょうか。

酒井:全く新しいことを始めてもいいですが、まずは自分が元々持っていて、他人に対して優位性があり、楽しくできることを探してみてください。そのスキルを改めて磨き直すのが、最も効率の良い方法だと思います。

栗田:自分の得意分野や好き嫌い、持続可能性といった「キャリアの棚卸」をすることで、道が見えてくるのですね。



酒井:私自身、2017年に株式会社を清算し、個人事業主としてコンサルタントを続けています。経営者の立場から解放され、仕事がより一層おもしろく、充実するようになりました。
ただ、後半戦には、意外と知られていない落とし穴があります。前半戦のときには、役職も年齢も自分より上の人から仕事を依頼されることが多いですが、後半戦は社会のメインプレーヤーが若い世代に移るため、クライアントが年下になるのです。そのため、20代、30代の若者に「いっしょに仕事をすると楽しい」と思ってもらえる大人にならなければいけません。

栗田:後半戦では家庭、特に配偶者との関係も重要だと指摘しています。

酒井
:現役時代は、妻に家のことを任せきりにしておけたかもしれません。しかし、リタイヤ後は、できる限り自分のことは自分でして、配偶者の負担を減らすべきです。また、多くの女性は、それまでの人生で、有意義な時間の過ごし方を身に付けています。相手の気持ちに想像力を働かせ、彼女たちの生活を尊重すること。そしてセカンドキャリアについてもきちんと配偶者と相談することが大切です。
仕事だけでなく、家族とよい関係を築くことも人生の後半戦を楽しむコツなのかもしれません。


(構成・文 有馬知子)

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